会場は開始前から長蛇の列をなし、満席となる320名の来場者が結集。ひきこもり関係では異例とも言えるほど大勢の参加者が集まる、一大イベントとなりました。

2014年11月30日、東京都表参道にある東京ウィメンズプラザのホールで「ひきこもりUX会議」が開催されました。
「UX」とは「ユーザー・エクスペリエンス」のこと。「分析」される、「支援」される、「語ら」れる。そうした受け身の「ひきこもり対策」ではなく、ひきこもり経験(またはひきこもりの資質)を持つ8人のプレゼンターがリアルな提案を行うことをコンセプトとしたイベントです。

パネリストの皆さん

各プレゼンターの持ち時間はわずか8分。どのプレゼンターも「もう少し時間がほしい!」ともどかしそうにしつつ、話を切り上げていました。伝えたいことがたくさんあるプレゼンターと、一言も聞き漏らすまいと真剣に耳を傾ける参加者。お互いにそうした緊張が認められながらも、時たま起こる笑い話で少しずつ会場の空気が解きほぐされていきます。その成果は、8人のプレゼンが終了した後に行われた「ミニセッション」で表れました。「ミニセッション」は、来場者の方同士でどんなことでもいいので5分間話し合う、というもの。お互い初対面ということでとまどう方もいましたが、しっかり場が温まった後とあって、活発なセッションが行われている席が多く見られました。

ミニセッションに続く質疑応答でも熱気は冷めやらず、発言を求める挙手が後を絶たない状況に。残念ながら全員の話を聞く前に時間いっぱいとなりましたが、閉会後も各プレゼンターのもとへ出向き、話を聞く参加者の姿が目立ちました。
「どの話も大変参考になった。いわゆる『支援』と違う、当事者の心情にのっとった形のものが広がってほしい」と話す出席者もおり、この日訪れた非当事者の方にも共感を呼び起こしています。
当事者同士という信頼のもとに生まれたコミュニケーション。ひき☆スタでは、新たな「出会い」を生み出した「ひきこもりUX会議」を取材しました。各プレゼンターの発表内容とともに、多くのプレゼンターの皆さまに伺った「ひきこもりUX会議」の感想を併載いたします。プレゼンターお一人につきひとつの記事とし、8回の連載となります。第1回は、岡本圭太さんです。

岡本圭太さん

1.岡本圭太さん(NPO法人ユースポート横濱職員/よこはま若者サポートステーション相談員)

岡本さんは、自身がひきこもっている時に受けた支援から、その有用性について話しました。
長髪にヒゲ、おしゃれなマフラーと一見ひきこもりには見えない岡本さんですが、大学の就職活動の失敗をきっかけにひきこもった経験の持ち主です。ひきこもっていた時は「働かなきゃ」「恥ずかしい」「申し訳ない」と、ネガティブな思考や焦りの気持ちが充満していたと言います。
自身がひきこもっていた15年前は「就労支援がなかった」と話す岡本さん。しかし、精神科医療やカウンセリングを通じて「自分は怠けているわけではない」と言ってもらい、とても安心したということです。ただ、医療にすべてを任せたわけではありません。その他にもデイケアや自助グループ、さらに家族や友人の理解なども含めて「たくさんの支援を使い分けた」ことが功を奏したそうです。当事者グループでは「自分以外にも同じような人がいることが分かって安心」し、ひきこもり当初に抱えていた悩みが徐々に解消されました。「ひきこもりの問題には万人に有効な特効薬はないけれど、皆さんの参考になれば」と締めました。

1.初めての「ひきこもりUX会議」の手応えはいかがでしたか?

たくさんの人に来てほしいと思ってはいましたが、まさかこんなにいらっしゃるとは思っていませんでした。うれしい誤算です。開場時間前からたくさんの方が並んでくれたのも驚きでした。来場者の皆さんによるディスカッションも大変盛り上がり、うれしく思います。 自分のプレゼンについてはトップバッターだったので、まだ場が温まっていなかったかもしれません……(笑)
ひきこもりについては、潜在的には数十万人とか、それくらい関心が高いものだと思います。今回の来場者だけで収まるものではありません。「ひきこもりUX会議」は、潜在的にはもっともっとニーズがあるものだと思います。
事務局のスタッフさんがとても頑張ってくれましたし、SNS上でシェアや拡散をしてくれた人もたくさんいました。「当日は残念ながら行けないけど、今後開催するならば携わりたい」と言ってくださった方もいます。今回のイベントは、今後も続けていけばもっとたくさんの人に関心を持ってもらえるし、もっとたくさんの人に関わってもらえるという手応えはひしひしと感じられました。

2.第2回「ひきこもりUX会議」がもし開かれるとしたら、どういったものにしたいですか?

第2回目以降は、第1回目よりも「より現役に近い世代」がプレゼンターになって、みずからのUXを訴えられるようになってほしいです。今回のプレゼンターの顔ぶれを見ればわかることですが、「当事者」というよりは、もうだいぶ現役を過ぎた人たちが中心になっています。「UX」という点からいえば、現在進行形のニーズを訴えるにはいささか心許ないかもしれません。正確さを欠くかもしれない。やはり、リアルなUX(ユーザー・エクスペリエンス)を伝えるためには、僕たちよりももっと当事者性の強い人に発言してもらうのが一番です。ただ、すぐにそうなるのは難しいと思うので、まずは活動を続けていくことが大事です。活動を続けていくうちに、新しい若い世代のプレセンターが出てきてくれると思います。そういう「あるべき状況」をこれから作り出していくためにも、今後はこのイベントに、より積極的に関わっていきたいです。

3.もし、プレゼンターとして伝えきれなかったことがございましたら、お話しください。

今回伝えきれなかったことはたくさんありますね。あと20回くらいはプレゼンできます(笑)。でも、特に伝えたいことは2つあって、1つは「ひきこもりの高年齢化の問題」についてです。行政がひきこもりの支援対象年齢を39歳までとしていることで、結果的に、40代以上のひきこもりの存在を「見えないもの」にしています。行政の定義が現実に合わないものになっている。今後高齢ひきこもりの問題に光を当てるために、考え方を転換する必要があるということを伝えたいです。あともうひとつ伝えたかったのは、「理解のまなざし」を育てるための支援策の必要性です。「ひきこもりは決して特別なことではなく、誰の身にも降りかかることなんだ。特別じゃないんだ」という認識が広がれば、ひきこもりのQOLも向上すると思います。これについては、県の青少年センターがヒントになる事業をやっていたので、そこも紹介しながら伝えたいですね。

【他のプレゼンターの記事】
②丸山康彦さん
③石崎森人さん
④小林博和さん
⑤林恭子さん
⑥勝山実さん
⑦川初真吾さん
⑧恩田夏絵さん

ひきこもりUX会議公式サイト

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