はたらかないでたらふく食べたい表紙

「はたらかないで、たらふく食べたい」の著者であり、いま最注目の政治学者である栗原康さんに、「ひきこもりについて」「働かないことについて」「お金について」など、いろいろと話を伺ってきました。
聞き手/伊藤書佳(編集者)&勝山実(ひきこもり名人)

インタビューに応える栗原康さん



一切仕事がない

――栗原さんはご著書で「はたらかないで、たらふく食べたい。これがあたらしい格言だ」と書かれています。どうしたらそんなふうに思えるんでしょう? なぜ「働かない」と強く打ち出すことができるのでしょうか?

もともとそんなに強く言えていたわけではないんです。ぼくは大学院にかなり長期間通っていたんですけど、その頃は学生という籍があるから、人からやいやい言われることはあんまりなかった。でも、そのあと5年くらい、一切仕事がない。一切ない。週に1コマだけ非常勤講師をして、年収10万円、そういう時期があったんです。

 そういうときは親や近所の人、親戚たちから、「やっちゃんは大器晩成型ですかね」なんて、「働け」という意図をこめて言われたりして、やっぱり、「うーん」と思っていたりもしました。だから、もともと強かったわけではないんですよね。もちろん、そうは言っても大学院に行っていたのは、文章を読んだり、書いたりするのがむちゃくちゃ好きだったからで、だから頑としてやりたいなと、なんかちょっと思ったりして…。

特技は土下座

それこそ最初は親からいろいろ言われていました。でも、その頃からぼくに特技が身についたんですよね。なにか言われたら、とりあえず謝る。土下座して、「もうちょっとしたら稼げるようになるから、もうちょっと、もうちょっと」なんて言いながら、お小遣とかもらったりして。案外それを何年間も続けていくと、親もだんだん折れてくるんですよ。

だから、最初から強かったわけじゃなくて、謝ればいけるぞと、少しずつ思えるようになっていったんです。それを続けていたら、やりたいことがあるからお金にならなくてもやるぞといったふうに、開き直れるようになって、そしてそのほうが意外と楽だなと思えるようになりました。

――まずは謝るわけですね。頭を下げたくないという気持ちはなかったんですか?

10代の頃はあったと思うんです。でも、30代に入ってくるとなんでもありだと。ただむずかしいのは、ぼくはずっと実家暮らしなんですけど、関係が近いから直に嫌なことを言われたりして、ケンカになります。人によっては厳しいですかね。とはいえ、僕はそれでも頭下げてなんとかなるならいいかな。


本がないから写経しよう

あと、きつかったのはお金がなかったのでほとんど本が買えなかったことです。たまに友人や知人が本を送ってくれて、それを無駄に何十回も読む。ぼくは大正時代のアナーキストである大杉栄をずっと研究していて、学生でまだ奨学金を借りていた時期に全集を買ったんです。何度か読んでいたんですけど、どうせ暇だし、もう1回読むかと思って、何度も何度も読んだら、おもしろかった。無駄に時間があるから音読しようとか思って、音読し始めたりもしましたね。

最終的には、ほかに本がないから写経しようと。そんな勉強でいいのかと思いながらもやっていた時期があって、それがやたら楽しくて。でも本当の勉強はそういう感じでいいと思うんです。新しい勉強方法を自分のなかで発見していく。もっともっとおもしろい勉強方法があるし、こういうことも考えられると、そう思った瞬間に、ぼくの部屋、六畳くらいの狭い部屋にいたんですけど、閉じこめられてはいるんだけど、壁に仕切られてはいるんだけど、なんでもできるぞと思えたんですよね。その瞬間、ぱっと世界が無限に広がった。ポンと頭に穴があいたというか、頭脳に衝撃が走った、そういう瞬間があったんです。

それから、急に自分の心と体が軽くなったような気がして、親になんか言われたら頭下げよう、やれる手段はなんでも使って好きにやっていくぞ、そういうふうに思うようになりました。

後編に続く】



※こちらのインタビューは動画記事もございますので、併せてご覧ください!
【撮ってみた】政治学者・栗原康さんにインタビューをしてみた【取材】



【栗原康】プロフィール
政治学者、東北芸術工科大学非常勤講師。1979年埼玉県生まれ。著書に「大杉栄伝-永遠のアナキズム」(夜光社)、「現代暴力論-『あばれる力』を取り戻す」(角川新書)など。最新刊に「村に火をつけ、白痴になれ-伊藤野枝伝」(岩波書店)がある。



【伊藤書佳】
編集者。NPO法人全国不登校新聞社理事。不登校・ひきこもりを当事者と語る「いけふくろうの会」世話人。
伊藤書佳Twitter:https://twitter.com/fumika_itou
いけふくろうブログ:http://ikefukurou.blogspot.jp/


【勝山実】
著述業、ひきこもり名人。1971年横浜生まれ。好きな言葉は「学歴不問」。2001年「ひきこもりカレンダー」を出版。07年「ひきこもりカレンダー」絶版。かつちゃんは倒れたままなのか。否、かつちゃんは立ち上がった。「安心ひきこもりライフ」(太田出版)発売中。
勝山実Twitter:https://twitter.com/hikilife
ブログ「鳴かず、飛ばず、働かず」:http://hikilife.com/

<リンク>
【撮ってみた】政治学者・栗原康さんにインタビューをしてみた【取材】
【取材レポート】「ひきこもりUXフェス」に行ってみた。
【撮ってみた】不登校新聞石井編集長インタビュー【取材】

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