インタビューに応える栗原康さん
「はたらかないで、たらふく食べたい」の著者であり、いま最注目の政治学者である栗原康さんのインタビューの後編です。「働かないことについて」「お金について」、そして最後に「ひきこもり・不登校へのメッセージ」をいただきました。
聞き手/伊藤書佳(編集者)&勝山実(ひきこもり名人)

(前編より続く)

負の連鎖

でも、ずっと家でこもってやっていればいいやと思っていたわけじゃなくて、本の中にも書いたんですけど、当時ちょっと女性とつきあっていた時期があって、そのときは彼女から「働けよ」と言われたりしました。彼女はお金にならないのに勉強したり、本を読んだりすることがどうしても嫌だったみたいなんです。言われたのは、「なんでもいいから、働く姿を見せてくれ」。コンビニのバイトでもいい、週5日働いている、それが社会人なんだからやってくれと言われました。毎日電話がかかってきて、1時間くらい説教されて、「悪いのかな、オレ」とか思ったりして…。

だけど根っこの部分は変えちゃいけないのかなと思います。ここまで普通の社会人になる修行や訓練を積まない段階で、非正規の仕事などをやり始めると、たぶん逆に悲惨なことになっていきます。ほんとにひどい仕事しか見つからないとか。ぼくはやらなかったんですけど、昔大学院の先輩のなかには、20代後半になってファーストフードの面接に行って落とされたといった話が結構あって。それで焦れば焦るほど、ひどい仕事でもいいやって心境的になってきて、そっちに拘束される。負の連鎖というか、ずっとひどい仕事ばっかりやっていると、オレはダメなんだ、みたいに変な負の連鎖に引き込まれるときがある。だから一度開き直ってしまって、それでいくぞと覚悟したほうがいい、単純に生きるってことを考えたらそっちのほうがいいのかなと思います。

お金が人の善し悪しを計る基準になっている

――人にとって、お金を稼ぐのが当たり前だと思い込まされているところがあるということなんでしょうか?

経済の論理が、すべてはお金を稼いでなんぼでしょというものになっています。お金を稼ぐということが基準になっている経済だから、お金を稼げるかどうかで人の善し悪しが決まっちゃう。立派な会社に勤めていて、お金をたくさん稼いでいます、これは偉い人ですと。労働者としてもそうだし、モノを買う時にも、お金をたくさん払って、よりよい商品を買える人は、立派な人ですよねと言われる。

で、これ、逆があるから怖いんだと思うんですよね。それが人の善し悪しを測る基準になってしまっているからこそ、お金を稼いでない人間が非人間的というか、人としておかしいと言われるのが、今の経済の怖いところかと思っています。それがおかしい生き方だといわれると、自分の中で「生の負債」、自分の負い目に感じてしまい、もっと稼がなくちゃということになる。

もっと稼ぐという状況が作れなくなっているのに、もっと稼がなきゃと。そうできない自分が悪いと思い続けるシステムができてしまっている。これがお金を稼ぐことがいいことだと言われている、資本主義の世の中の怖ろしいところです。

本当はちょっと目を広げれば、人間の日常生活って別にお金で動いてるわけじゃない。ぼくがペンを落としたとして、誰かが拾ってくれたとする、今の資本主義社会だと対価と見返りで、これだけやったらこれだけの報酬と、お金で換算して考える。でも、ぼくがペンを落として拾ってもらったからといって、それで金よこせなんて言われないじゃないですか。普通の人間関係ってそういう感覚で、たんに人が困っているから助けてあげようとか、そういう感覚のほうが人の生活としてはぜんぜん幅が広い。お金を稼いで生きるのは会社に行っている一時の間だけ。ちょっと目を開くだけで違う世界が見えてくると思います。

ひきこもり・不登校へのメッセージ

――「不登校新聞」と「ひき☆スタ」のインタビューなので、最後にひきこもりへのメッセージをいただけないでしょうか。

ぼくは不登校の経験はないんですけれども、ただ高校の時に家から千葉のほうに2時間くらいかけて電車で通学をしていたんです。高校3年までは超まじめで、朝5時起きとかしていて、でもある時サラリーマンにカバンでぶっ叩かれたことがあって、満員電車がすごく嫌になっちゃって…。

そのあとドロップアウトして、授業サボって面白い本があったら一日読んじゃえと思って、公園でずっと本を読んでいた。その時のことが、自分の記憶としてはずっと残っているんです。

授業で習った内容なんてほとんど覚えてない。だけど、サボって読んだ本やその時のわくわく感とかすごく覚えていたりするので、本当の意味で学ぶっていうのは、ドロップアウトして、「まわりに合わせてこうしなさい」というものさしをふり捨てて何かをやっている時じゃないかと思うんです。そういう時間が、その後の自分の経験として大事になってくる。不登校であるっていうのは、いじめとかでネガティブなことがあってなることもあるけど、ネガティブな意味だけじゃなくて、大事な経験でもあると思うんです。

自分は人とは違うことをやっている。そこで負い目を背負わされるから、厳しくなってしまう。でも、人と違ってすげーじゃんと、そう思えるようになると変わってくるというか、その経験はまわりにとって特殊な、自分にとってはかけがえのない経験になったりする。だから自分は不登校の経験がなくてアレなんですけど、不登校大事っていうか、自分にとってひきこもった時期が今の自分の支えだったりするので、ひきこもり大事、不登校大事。まずは自分がそう思っていくことが、大事なのかなと思います。


※こちらのインタビューは動画記事もございますので、併せてご覧ください!
【撮ってみた】政治学者・栗原康さんにインタビューをしてみた【取材】



【栗原康】 プロフィール
政治学者、東北芸術工科大学非常勤講師。1979年埼玉県生まれ。著書に「大杉栄伝-永遠のアナキズム」(夜光社)、「現代暴力論-『あばれる力』を取り戻す」(角川新書)など。最新刊に「村に火をつけ、白痴になれ-伊藤野枝伝」(岩波書店)がある。

【伊藤書佳】
編集者。NPO法人全国不登校新聞社理事。不登校・ひきこもりを当事者と語る「いけふくろうの会」世話人。
伊藤書佳Twitter:https://twitter.com/fumika_itou
いけふくろうブログ:http://ikefukurou.blogspot.jp/

【勝山実】
著述業、ひきこもり名人。1971年横浜生まれ。好きな言葉は「学歴不問」。2001年「ひきこもりカレンダー」を出版。07年「ひきこもりカレンダー」絶版。かつちゃんは倒れたままなのか。否、かつちゃんは立ち上がった。「安心ひきこもりライフ」(太田出版)発売中。
勝山実Twitter:https://twitter.com/hikilife
ブログ「鳴かず、飛ばず、働かず」:http://hikilife.com/


<リンク>
【撮ってみた】政治学者・栗原康さんにインタビューをしてみた【取材】
【取材レポート】「ひきこもりUXフェス」に行ってみた。
【撮ってみた】不登校新聞石井編集長インタビュー【取材】

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