ひきこもり生活で懸念されることの一つが、人とのつながりがなくなってしまうことです。ひきこもり当事者グループやひきこもりイベントなどに足を運べば、同じような境遇の人と知り合える可能性があります。しかし、そのためには「外に出られる」「交通費を捻出できる」といったことが条件となり、全ての当事者が参加できるわけではありません。
その一方で、当事者同士のつながりを模索しているという「ひき☆スタ」への投稿がいくつもあり「外には出られないけれど、話せる友達がいたら……」というニーズの大きさを痛感させられます。

そこで今回は、インターネットを利用し、部屋にいながらにしてネットワーク上で友達関係になったという、2人の男性当事者にお話を伺いました!現在30歳前後だという2人は無料通話/チャットサービス「スカイプ」でやり取りをしている仲。step(神奈川県内の自助グループ)世話人の近藤健さんを司会に迎え、インターネットでの交流事情に詳しい2人から、人との出会い方や危ないアカウントの見分け方などの実践的な話、さらにはノンフィクションの驚きエピソードまでお話いただきました!

千葉さんの顔イラスト 千葉さん(仮名)
千葉県在住。もともと人前で話すことが苦手。大学生のとき、授業で発表しなければならないときには、お酒を飲んでからでないとままならないほどだった。なんとか卒業までこぎつけたものの「人前で話せないのに社会でやっていけるのかな」という疑問を抱き、就職をしなかった。
数年後にこのままではいけないと思い、福祉関係の資格取得にチャレンジ。資格は取れたものの、研修を受けた際に自信を喪失してしまい、再びひきこもり生活へ。現在に至る。

岩手さんの顔イラスト 岩手さん(仮名)(スカイプ電話での参加)
岩手県在住。小学生のときから対人恐怖症にかかり、中学校の途中から不登校に。働いた時期もあったけれど続かず、ひきこもり生活に入った。
20代のある日、実際に会うことなく人と話せる「スカイプ」の存在を知った。それから、現在に至るまでスカイプでいろいろな人とつながっている。

近藤健(司会 神奈川県内の自助グループ・step世話人)
大学卒業を前にして、アルバイト経験から就職する自信がなくなり、就職活動などをほっぽった。これが長期空白期間の始まり。後輩には「ムーミン谷を探しにいくんだ」と話していたが、結局ひきこもり生活に入る。「TANTRA」「アラド戦記」「雀龍門」などのオンラインゲームを6年間続けた経験がある。

インターネットで友達を作ろうと思った理由













(近藤)千葉さんと岩手さんはどれくらいの付き合いがあるんですか?

千葉さん5年くらいですね。

(近藤)そんなに長く関係が続いているんですね。実際に会われたことは?

岩手さん実際に会ったことはありません。

(近藤)そうなんですね。それでは、まずはおふたりが友達を探そうと思ったきっかけについて教えてください。

千葉さんひきこもった当初は部屋で一人悶々としている時間が長かったのですが、次第に人と交流したいと思うようになりました。「2ちゃんねる」に書き込むことでコミュニケーションを取ることができますが、もっと悩みを語り合える場が欲しかったんです。自分と同じような境遇の人と話すことで、安心感や癒しを得られるのではないかと考えていました。そこで交流掲示板を利用してスカイプでの友達を募集したところ、岩手さんが応募してくれたんです。

岩手さん私は対人恐怖症だったのですが、人にとても飢えていました。もともと人と群れていないとやっていけないタイプだったので、とても寂しい思いをしていました。そんなとき、スカイプなら相手と顔を合わせずに話すことができるというのを、ネットゲームでつながっている人に教えてもらったんです。それからは話しやすい人と出会うことができて、いまでも仲良くしている人が何人かいます。
千葉さんの募集は交流掲示板で見かけました。募集理由がしっかりしていたので、この人なら大丈夫だと思いました。趣味も自分と合っていました。

千葉さん岩手さんと知り合ったころは、毎日のようにスカイプを使って電話をしていました。現在は週に2度くらいですかね。自分の性格として、毎日スカイプを使うのは束縛に感じることがあるので。

岩手さんその点、私はどちらかというとスカイプ依存ですね(笑)たくさんの人とスカイプでのつながりがあります。

ネット上で友人を作ってよかったこと

★趣味トークなどで気持ちをリフレッシュできる
★情報をたくさんもらえる
★対人のハードルが低いので会話の練習になる
★実際に会って話す関係へ発展する(オフ会)



(近藤)ネット上で友達をつくるようになってよかったことってありますか?

千葉さん気晴らしになりますね。スカイプで人と話すことでリフレッシュできるし、なぜだか取り組んでいる趣味にも身が入ります。あとは、ひきこもっていると家族以外との会話がなくなってしまうので、いろいろな人と話すことでニュース・トピックや流行の情報も入ってくるという利点もあります。

岩手さん私は対人恐怖症のため、全く人と話せませんでした。そのため、最初は相手の話にうなずくことしかできませんでしたが、話している相手の真似をしていったら、徐々に喋れるようになりました。

(近藤)話すのが苦手な人にとって、相手と直接会わなくていいというのは、対人のハードルが下がりますね。

千葉さん普段からネットで話す練習をしておくと、たまにリアルで外に出たときに、コンビニとかで店員と話す際、うまく声が出せないという事態にならずに済むと思います。

(近藤)ネット上のコミュニケーションを通じて、実際に会った人はいますか?

千葉さん現在でも定期的に趣味の話をしている人と、数年前にオフ会という形で1度会いました。
相手の方もひきこもりでしたね。ファミレスでお互いの趣味の話をしたり、相手の方が書いているというマンガを見せてもらったりしました。

(近藤)すごいなあ。これはもう「草の根自助グループ」って感じですね。

岩手さん私の場合は少し特殊で、まずネット上で友達をつくり始めたころ、自分の見た目(顔貌)にとても不安を感じていました。そこで、ネットで知り合った人に実際に会ってもらい、自分の見た目で外に出ても大丈夫か聞いたことがあるんです。お世辞かもしれないですが、「大丈夫ですよ」という言葉を頂いて、それが少し自信につながりました。
そのほかには、スカイプで知り合った人に誘われ、ルームシェアをしたことがあります。
そのときは、上手くやっていきたいという思いが強すぎて空回ってしまい、「相手の前では笑顔でいなければならない」という強迫観念に常に苛まれていました。また、ネットではうまくいっていたものの、リアルだと相性が合わず、最終的には相手の方から冷たく接せられるようになり、それに耐えられず実家に帰ってきてしまいました。

読んでおきたい!ネット交流のトラブル回避方法












★怪しいアカウントは検索してチェック
★初めから個人情報(住所など)を出しすぎない
★「話したいペース」は相手との相性を測る大事な要素
★複数のアカウントはしっかり管理。乗っ取られることも



(近藤)インターネットで友達を作ることはいいことがたくさんある反面、先ほどの岩手さんのお話のように辛い目に遭うこともあるんですね。
少し時系列を戻しますと、インターネットでの出会いって、相手をだますことが目的の、いわゆる「釣り」のアカウントがあったり、釣りではないけど過激な言動を繰り返すような人がいたり、必ずしも安全に利用できる空間ではないですよね。そうしたトラブルはどのように回避していますか?


千葉さんスカイプの場合は、まず相手のアカウント名をグーグルで検索にかけて、釣りじゃないか、ほかの人に晒されていないかなどを調べています。

(近藤)自衛の為に検索でチェックとは…なるほど、そんな手は考えてもみませんでした。カード会社の審査みたいですね(笑)
募集をかけたり、応募して相手に最初のメッセージを送ったりするときは、どんな内容を書いていますか?


岩手さん最初は趣味、年齢、病気の症状くらいしか載せていませんね。

千葉さん住所とかいろいろな個人情報をさらしすぎると、どういう風に使われるかわからないので警戒した方がいいと思います。

(近藤)スカイプでこちらから連絡を取るときって、プレッシャーがかかりませんか?ラインと同じような機能だから、そうでもないのかな。

千葉さんスカイプは、ラインなどのチャットアプリと同じような使い方ができます。こちらからメッセージを送って反応があったら「いま話せそう?」と返し、相手が大丈夫であれば通話をする、というようなやり取りで会話をスタートさせています。
ただ、ネット上では、相手との距離感をうまく保つのが難しいなと感じます。人によっては、向こうから届いたメッセージをこちらが返せずにいると、怒ってしまい関係が壊れるということがあるらしいので。

岩手さん私の知り合いにも、チャットをすぐ返さないとイライラしてしまう方が何人かいます。

千葉さんひきこもり同士だと、お互いにいつもパソコンの前にいるのが分かるので、話そうと思えばいつでも話せますよね。話したいと思うペースは人それぞれですが、私の場合は毎日話すことにストレスを感じます。3日~1週間に1度くらいがいいかなと思っているのですが、1日中話しているのが好き、という人もいます。そういう面での、相手との相性の見極めも大切だと思います。

(近藤)コミュニケーションを取ってみたけど「この相手とは合わないな」と思ったら、どうやって距離を取っていますか?

千葉さんお互いが合わないと思えば自然消滅するので、それが一番楽ですね。ただ、相手から次々とメッセージが来るような場合は、関係を断つのに罪悪感を覚えてしまいます。

(近藤)離れたい気持ちと罪悪感の板挟みで疲弊してしまうこともありそうですね…。「苦手だな」と感じる相手と思い切って離れるのは、回数を重ねると慣れていくものですか?

岩手さんスカイプでのつながりは私にとって一種の財産だと思っているので(笑)、どんな相手だろうと疎遠になるのは悲しいです。ただ、合わない人とずっと付き合っていくことは辛いので、これまでも何回かフェードアウトしてきた経験があります。最初の方は数日間そのことを思い悩んでいたりもしましたが、最近は慣れました。

千葉さん距離を取られるのも初めは辛いかもしれませんが、だんだん慣れていきますよ。

(近藤)相手から離れるだけじゃなくて、自分が関係を解消されることだってありますよね。
関係を完全に断つために、スカイプのアカウントを作り直して一からはじめる、ということもあると思うんですが、おふたりは複数のアカウントをお持ちなんですか?


千葉さん2、3個はあるかな?

岩手さんスカイプでの人間関係に失敗したら新しいアカウントを作るので、たくさんあります。

(近藤)たくさんアカウントを持っていると、どのIDがどのパスワードだったか覚えられないですよね。管理はどうやっているんですか?

岩手さんIDごとのパスワードは、パソコンのメモに記録しています。でも、使っていないアカウントは乗っ取られることがあるんです。

千葉さんそういえば以前、岩手さんのアカウントからチャットの通知が来たんです。「あ、岩手さんからだ」と思って、何も疑わずにそのメッセージ内のURLを開いたら「ウィルスに感染したので、このソフトをダウンロードしてウィルスを除去してください」というポップアップ画面が出てきたんです(笑)。実際はウィルスに感染したわけではなかったのでスルーしたのですが、焦ってそのソフトをダウンロードするとウィルスに感染する仕組みだったのかもしれません。

(近藤)なるほど。変な画面がでても慌てて指示に従ってしまったりせず、落ち着いて対応するのが大切なんですね。ちなみに、岩手さんは多くの方と交流があるとのことですが、年齢層や男女比などを教えていただけますか?

岩手さん年齢層は自分と近い方もいますが、10代前半や40代の方もいます。
男女比は8:2くらいかな。ひきこもりの方以外と交わる機会はありません。

(近藤)ひきこもりの方とだけって知り合う対象を絞っていても、たくさんの方とオンラインで知り合っていけるものなのですね。ひきこもりの当事者同士だとお互いに境遇への理解や安心感がありそうです。

恋愛に発展も!? エピソードうちあけ話













千葉さんそういえば岩手さん、最近何かいいことあったんだって?

岩手さん実は、スカイプで知り合った女性に告白されました。

(近藤)え~!本当に!? お相手の方もひきこもり当事者ですか?

岩手さんはい。初めはネット上での友達という間柄だったのですが……。
ただ、自分が対人恐怖症なので、それを治して会えるといいね、という話をしています。今は彼女と会うための訓練として、デイケアに通うための手続きをしている段階です。

(近藤)自分の抱えている事情を開示しながら、互いに会えるといいねって言い合える人と出会えるなんて素敵。うまくいくといいですね!

千葉さん交流を目的とした掲示板には、強引にパートナーをつくろうとする、いわゆる「出会い厨」もいるんです。真面目な人が集まる掲示板もあるので、そういった見極めが必要ですね。

岩手さん私の場合は人の紹介をつたって知り合いが増えています。他にはスカイプの会議に参加することで一挙に多くの知り合いができる場合もありますね。
また、オンラインゲームで、ひきこもりのグループを作る場合もあります。いきなりスカイプから始めなくても、オンラインゲームからつながることもできますね。

(近藤)ひきこもりながらでも、オンラインで時間をかけて信頼できる人とのコネが作られていくんですね。私も千葉さんから岩手さんを紹介してもらったことで遠い岩手の岩手さんとスカイプで話させていただいているわけで、ネットのコネの広がりってすごいなとまさに今感じています。千葉さんはなにかエピソードはありますか?

千葉さん昔、あるゲームをしながら話す3人くらいの通話グループがあったんです。しかし、その中の1人が問題児で、何度も私たちを裏切り、ほとぼりが冷めたころに許してくれと謝って戻ってくるんです。それを20~30回も繰り返していく間に、ブロックされたり、暴言を吐かれたりもしました。最終的には、関係の修復ができないため縁を切りました。普段は問題なく話せるのですが、急に性格が変わってしまうような人もいるので、人間関係の難しさを痛感しました。

(近藤)やはり一筋縄でいかない時もある、と。そこはやはりオンラインも生身の人と人同士の関係なんですね。

ネットで友達をつくってみたい……という当事者へ一言!

千葉さんインターネットでの交流は、メリット・デメリットがあります。うまくいけばそれがきっかけで外に出られたり、社会復帰できたり、という場合もありえます。しかし、使い方を誤ると、自分が精神的に追い込まれてしまいます。取扱注意ですね。 こうした交流のあり方として、支援されている側の要望としては、元ひきこもりやひきこもり当事者の方と安心して話せる「ひきこもり専用ダイヤル」のようなものがあったらいいなと思います。

岩手さんまずはチャットや通話をしてみて、とりあえず相手の話を聞いてみてはいかがでしょうか?私のように対人が苦手な方は、最初は自分から話せないと思います。それでも、深く考えすぎず、相手の話をひたすら聞く練習から始めれば、話せるようになるかもしれません。

<司会者プロフィール>
近藤健が大船観音を背景に観音様と同じポーズをとっている写真 近藤 健(こんどう・けん)step世話人 家庭教師
2004年に学生生活を終えた後ぼんやりと、しかし平和に過ごしていたら7年が経過。2011年にハローワークの相談員に空白期間を叱責された事をキッカケに、自分を責めだし外出や日常生活を送る事が難しくなる。
その時、「ひきこもり」という単語を知り、ひきこもりの当事者・経験者による親睦と交流のための神奈川県内のサークル・stepに参加。当時の世話人の後を継ぎ現世話人となる。
step参加と併行して、よこはま若者サポートステーションの利用を開始。
その他にも様々な場所に足を運び、若年から高齢までの多様なひきこもりや新卒既卒ニート、また普通に(?)働いている人々と語らいながら自分がどんな日々を送りたいかのイメージを持つようになった。
今も家庭教師をしつつ人々の姿から学ぶ日々を送っている。
step(ステップ)http://www.geocities.jp/stepkanagawa/
メール stepkanayoko@yahoo.co.jp

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