日本を代表する演出家であり、KAAT神奈川芸術劇場(神奈川県横浜市中区山下町281)の芸術監督を務めていらっしゃる宮本亜門さん。テレビやCMでご存知の方も多いかもしれませんが、実はひきこもり経験者でもあります。

高校時代のひきこもり経験を著書「ALIVE」(2001年、NHK出版)をはじめ、各所でオープンに語っています。(「ALIVE -僕が生きる意味を見つけるまで-読んでみた。」

ひき☆スタでは、「きれい事で終わらないインタビューを」といったサイト利用者の思いを携え、宮本さんの本音を引き出そうとお話を聞いてきました。

スタートからどんどん繰り広げられる熱いトーク!予定時間の倍にもわたるロングインタビューを、5回シリーズで掲載していきます!

1.―宮本亜門が振り返るひきこもり体験-

宮本亜門さんがひきこもりになったのは高校生の時。はっきりしたきっかけはなかったものの、数日休んだのを期に、そのまま学校に行けなくなってしまったそうです。(ひきこもった期間や、ひきこもらなくなった経緯についての詳細は、第2回以降に紹介します)

演出家として活動するようになってからも、苦しい状況に追い込まれた時には各地を旅するなどし、意識して自分を「リセット」してきた宮本さん。第1回は、そんな宮本さん自身のひきこもり体験を中心にお送りいたします!


◆今だってひきこもってますよ!

――自伝「ALIVE」の中で宮本さんは、ロンドンを放浪したり、沖縄に移住したりするときに「リセット」という言葉を使っています。この時は「現状から抜け出したい、自分の世界を見直してゼロから物事を捉え直してみたい」という思いがあったのではないかと思います。

高校生当時は「リセット」をする気持ちでひきこもったわけではないと思うのですけれども、ひきこもりと「リセット」には何か共通点があるでしょうか?

僕は最初からリセットしたくてしたわけではありませんし、学校に行かなくなったのも計画的だったわけではありません。ただ「自分の心が限界にきた」からなんです。

しかしこの限界も、今思えば、誰にでもあるものの一つだと思うようになってきました。ほとんどの人は生きていく上で、心のアップダウンがあるものです。「生きていてうれしい」という喜びを感じる時もあれば、「自分なんか生きる価値がないんじゃないだろうか」と悩み、死んでしまいたいと思うこともあります。特に高校の時は、まだ見ぬ将来に期待反面、大きな不安も抱えていたので、その自信のなさが激しく長く、落ち込ませたのでしょう。

実際、僕は大人になった今だって、悩んだら一人部屋の中にこもって頭を抱えますよ。例えば、酷いときには部屋の片隅でこんな風になってね。(編集部注:ひざを抱えて座り、下を向いて)でも今は、高校生の時とは同じようには長引きません。それは、落ち込んでも這い上がってきた経験がたくさんあるからです。だから、前ほど長いひきこもりはしなくなったのです。


◆ひきこもった経験をオープンにしたい

じゃあなぜ本で「リセット」と書いてあるのかと言うと、ひきこもりは病気でもなんでもないと思っているからです。それは単に、自分自身と向き合い、次の人生を歩むために必要な時間だった。つまり心の状態をゼロに戻してリセットしたり、または方向転換や、自分の考えを整理するための大切な時間だったと思っているからです。

ですから講演会でもどこでも、僕は「ひきこもりだった」と自信をもって、大きな声で言っています。人は残念ながら、自分と違う生き方、感じ方をしている人を見て、恐れたりするところがあります。本当はただその人の気持ちを知らないだけなのに、それが拒否に変わってしまったりするんです。特に日本の「みんな一緒」的な教育では「ひきこもり」が、理解不能で危険なものとされてしまいます。そんなステレオタイプ的な物の見方に警笛を鳴らし、「ひきこもり」にはいろいろな理由と在り方があると知ってもらいたくて、話しているんです。そして少しでも「ひきこもり」への偏見をなくせれば、と思っています。

それにもう一つの理由は、ひきこもっている人に、罪悪感を持ってほしくないからです。一般的には人一倍感受性の強い真面目な人ほど、ひきこもる傾向にあります。もっとずうずうしく、堂々とひきこもってほしい。そうしたら新たに行動する興味や勇気が湧いてくると思うからです。ひきこもりは、誰でも持っている心のアップダウンのリズムや習慣。それを変えられるのも自分次第と感じてもらえるとうれしいです。

この本でもそのことには触れています(2012年10月刊行「引きだす力―奉仕型リーダーが才能を伸ばす」=NHK出版新書389=を手にして)。今、こうして演出家として、多くの人と関わっているわけですが、もし昔の自分が現れて今の僕を見たらきっと「奇跡だ!」と驚いてくれるとでしょう。何故なら、人と話すのが怖い、目を見るのも恐ろしく、少しでも一人でいたかったからです。でも、心の奥にはある反対の気持ちが芽生えていました。それは「本当は人と話したい」「人に自分の気持ちを解ってもらいたい」という感情です。ですから中学生の頃、電車の広告で見つけてこっそり書き写していた「話し方教室」の電話番号を持ち続けていました。そんな「人と解り合いたい」という気持ちが、今はこうして広がっているのですから、嬉しくて仕様がないですよね。人に興味がないと言っていながら、本心では「人と関わりたい」からこそ、感受性が過剰に反応してしまうこともあると思うんです。

だから、ひきこもりの人はまず、それを否定しない。正しいとか間違いでもなく、ひきこもりは自分が生きる上での必要な過程。だから僕はこうしてオープンに話しているんです。ひきこもりである人もない人も、多くの人が「ひきこもり」を語ることでオープンになっていくことを望んでいるんです。


<「引きだす力―奉仕型リーダーが才能を伸ばす」=NHK出版新書389>



◆1回しかない人生を「生きててよかった」と思いたい

――最近ひき☆スタに寄せられた声からの質問です。「もう一度ひきこもりたいって思ったことはありますか?」

あります。今でもよくありますよ。でも、人生の場数を踏んできて感じるのは、思ったより「人生はあっという間」ということ。数年前、年老いてなお悩み苦しんでいる80歳近い父がこう言いました。「人生、深く悩むには短すぎる」と。

僕が沖縄に住み始める前は、ひきこもりそうなほど様々なことに悩んでおり、移住という計画を立てリセットしました。大人になると自分で人生が選べるから、長く部屋にいるより、行動して新たな方法を見つけていけるんだと思います。だから前よりも苦しむ日数が少なくなってきました。

――では、もう一度生まれ変わったとして、ひきこもるという過程は避けたいと思いますか?

不思議な質問ですね~。どうだろう、まず自分が昔ひきこもった時は本当につらかった。だから単にあの頃に戻りたいとは言わないでしょうね。選択肢がない状態だし、あの長さは、さすがに厳しすぎたから。
でも、心の奥で、ギリギリまで自分を追い込んだり悩んだりするのは、嫌いではないですね。むしろ、悩まない人生はつまらないと思うので、感動も、喜びも、痛みも、何にも感じない人生は嫌だなーとは思います。

僕の母は肝硬変を患っていてで、僕が小学生の頃から入退院を繰り返していました。でも、母はそういう状況でも常に生きることにどん欲でした。だって、何度も死の宣告を医者から受けていたのですから。だから、どんな人生であろうと、自分で後悔したくない、一回限りの人生を、完璧とかじゃなくて、存分に悩み、楽しみ、苦しみ、謳歌して過ごしたいのです。「人生二度なし」と思うと、今も悩んでいることが小さく思えてきてね。だから、行動し楽しむ。外に出て太陽を浴びる。それが今の僕の原動力なんです。

(今回の取材は、ひきこもり経験者を含むスタッフ4名で行いました)




宮本亜門
(みやもと・あもん)



演出家

1958年東京生まれ。ミュージカルのみならず、ストレートプレイ、オペラ等、 ジャンルを越える演出家として、活動の場を国内外へ広げている。


2010年4月よりKAAT神奈川芸術劇場・芸術監督。
KAAT神奈川芸術劇場ホームページ http://www.kaat.jp/

2004年、ニューヨークのオンブロードウェイにて「太平洋序曲」を東洋人初の演 出家として手がけ、同作はトニー賞の4部門でノミネート。
最近作は、2012年1月三島由紀夫原作「金閣寺」NY凱旋公演(赤坂ACTシアタ ー他)、5月オスカー・ワイルド作「サロメ」(新国立劇場)、9月「ウィズ~ オズの魔法使い~」(KAAT他)、11月「マダムバタフライX」(KAAT)。
2013年は4月「耳なし芳一」(KAAT)、5月現代オペラ「TEA: A Mirror of Soul」をバンクーバーオペラ(カナダ)にて再演予定。
2012年10月NHK「仕事学のすすめ」をもとに「引きだす力〜奉仕型リーダーが才 能を伸ばす」(NHK出版)を発行。2012年「日本メガネベストドレッサー賞」(文化 人部門)受賞。



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