日本を代表する演出家であり、KAAT神奈川芸術劇場(神奈川県横浜市中区山下町281)の芸術監督も務めていらっしゃる宮本亜門さん。テレビやCMでご存知の方も多いかもしれませんが、実はひきこもり経験者でもあります。

高校時代のひきこもり経験を著書「ALIVE」(2001年、NHK出版)をはじめ、各所でオープンに語っています。(「ALIVE -僕が生きる意味を見つけるまで-読んでみた。」

ひき☆スタでは、「きれい事で終わらないインタビューを」といったサイト利用者の思いを携え、宮本さんの本音を引き出そうとお話を聞いてきました。

前回は「現代社会とひきこもり」というテーマでのインタビュー。世間で「悪い」と言われることが、実はその人の面白い「個性」だったりすること。そして、ひきこもりであることを自ら発信する大切さについても語っていただきました。

今回は最終となるシリーズ第5弾です!


5.-「存分に生きる」-

インタビューシリーズもいよいよ最後となりました。第5弾では、「存分に生きる」という言葉について、宮本さんの思いを語っていただきました。自分を好きになり、一度しかない人生を存分に生きる――。ひきこもりを経験して以来人生を駆け抜けている宮本さんから、今ひきこもっている方へのメッセージです。


◆「人とつながりたい」からこそひきこもる

――「人とつながる」ために勇気を出すことが大事だと分かっていても、どうにもならない苦しさを抱えている方が大変多く、ひき☆スタへのメッセージにもそういった声が寄せられています。

ぼくは、「つながりたいという思いのある人が、ひきこもる」と考えています。

KAAT神奈川芸術劇場のこけら落としとして、三島由紀夫原作の「金閣寺」という舞台を演出しました。その主人公の溝口は、正直な思いを口にしたいのですが、なかなかできできず、その思いが強くなりすぎて吃音症になるのです。そして友人の死をきっかけに心の中にひきこもってしまいます。
だいたい、最初から「人生なんてこんなものだ」と居直っていたら、ひきこもらなくて済むでしょうが、ぼくはそういう味気ない強さを欲しいとは思いません。

<『金閣寺』=2011年、KAAT神奈川芸術劇場 撮影=阿部章仁>



ぼくは正直に、心の奥から、人と深く話しをしていたいのです。「『生きる』ってどういうこと?」「何のために生きるのか」とか、そういった生きる上で、最も大切なことを語り合っていたいのです。演劇というのは人間が人間のことを模索する表現ですから、稽古場でも役柄を通して深い話をたくさんします。たまに開くパーティーでもユーモアを織り交ぜながらも、そういった話をします。

ですから、「ひきこもり」というのは別に変わったことではなくて、むしろ、生きることを考えるには、当然「あり」の、自分の感性と向かい合うための、大切な時間なのです。そのために、社会とのコミュニケーションを一時断絶しなくてはならないだけなのです。

むしろ、いつもたくさん物事を考えているひきこもりの人たちの方が、ぼくにとって、正常な感覚を持っている人たちなのではないかと思うのです。


◆自分にウソをつかず生きていたい

――そうありたいですよね。ただ、あえて言うなら、生きることについて考え抜く真摯さを持ち続けることは、非常にしんどい側面もあります。とくにひきこもっている間は、答えのなかなか出ない問いで自分を追い込んでしまい、深く悩みがちです。「今はちょっとプー太郎なんだよ」と軽く流せば楽なのですが、当事者からは「それが言えたらひきこもっていないよ」というお話をうかがったこともあります。

演劇というのは、まさに「生きる」ということに真正面から取り組める世界であり、だからこそ宮本さんのように考え続けることも武器になるのだろうと思います。ですが、そうでない世界の中ではどのように生きていくのがいいとお考えでしょうか?

ぼくの中では「演劇だけが」という風に思ってはいないのです。今おっしゃってくださったように、考えないでいられたら楽だけど、それができないから苦しんでいる。それでも、ぼくは先ほども話したように、「ずっと考えていたい」と思っています。「考えないでいられる、斜に構えていられる」という強さは望みません。

ぼくにとっては、一度しかない人生を、正直に存分に生きていたいんです。それを諦めることは、絶対にできない。その方が、ぼくはひきこもることよりもずっと怖い。生きている限り、自分にウソはつけませんから。それは「演劇」とか仕事に限らず、全てに言えることではないでしょうか。

<『マダムバタフライX』=2012年、KAAT神奈川芸術劇場 撮影=林喜代種>



◆人生は面白い。だから存分に生きてほしい。

――それでは、最後の質問になります。「生きるとは」「自分とは」ということを考えてひきこもっていたとのことですが、今振り返って「生きるとは」「自分とは」どういうことだと思いますか?

他人がどういう基準で自分のことを言うか、それはぼくにとってどうでもいいことで、やっぱり「一番自分が好きな自分でいたい」に尽きると思います。人生は一度きり、二度はない。ならば一度しかない人生を「存分に生きたい」と思いませんか?いつ死んでも後悔しないように。

人っていろいろなタイプがいるし、誰かが「正しい人間」ってわけではありません。今はそう考えられるようになったけど、実際にひきこもっている時は「自分を好きになる」なんて到底できませんでした。自分を否定し責めていましたから。

だから、今ひきこもっている方には「自分を好きでいられるような何かを探して、存分に生きてほしい」と思っています。

<沖縄でビートくんと>



――「存分に生きる」ってとても素敵な言葉ですね。

だって、いつ死ぬか分からないからね(笑)。年を重ねてわかったのですが、人生は本当に短いんです。だから面白いんですけど。

ぼくが今こんなことを言うと、ひきこもっていた時の自分に「きれい事」って言われるかもしれませんね。でも、実際、こうして年を重ねてみると、人生がこんなに面白いとは、思いもしなかったんです!これはひきこもっている時には想像できなかったこと。あの頃は「大人になればなるほど、絶対に嫌なことしかないんだ。もう社会なんて」とずっと思っていましたから。まさか、こんなにいろいろな人との出会いがあって、自分が楽しくいられるとは、想像もしませんでした。今もまだ本当に驚いています。

人生は自分が思った以上に、自分によって変えることができる。こんなこと言ったら「亜門さんはいったい何を言ってるんだ」って言われてしまうかもしれないけど、ぼくはただ、誰もが、世界でたった一人しかいない自分の人生を、思う存分に生きてほしいのです!あなたのその心と体と魂で、一度しかない人生を存分に楽しんでください。

あなたが望んで行動すれば、必ずや想像を越える喜びが待っていますから。

(今回の取材は、ひきこもり経験者を含むスタッフ4名で行いました)




宮本亜門
(みやもと・あもん)


演出家

1958年生まれ、東京都出身。 1987年演出家デビュー作「アイ・ガット・マーマン」で文化庁芸術祭賞を受賞。2004年NYブロードウェイで東洋人初の演出家として手がけた「太平洋序曲」が、トニー賞4部門にノミネートされる。

2011年KAATのこけら落としとして、三島由紀夫原作の「金閣寺」を舞台化し、NYリンカーン・センター・フェスティバルに招へいされた。2013年は5月ミュージカル「スウィーニー・トッド」、オペラ「TEA」(バンクーバー)、8月彫刻家イサムノグチを題材とした舞台「イサム」、移動型ミュージカル「ピノキオ」、初めて手がける歌舞伎「はなさかじいさん」の演出。9月にはオペラ演出では初となる欧州進出で、オペラ「魔笛」をオーストリア・リンツの新歌劇場で上演するなど、国際的な活動も目白押し。

近著に「引きだす力〜奉仕型リーダーが才能を伸ばす」(NHK出版)。
12年「メガネベストドレッサー賞」(文化人部門)受賞。
2010年4月よりKAAT神奈川芸術劇場・芸術監督。

宮本亜門演出『耳なし芳一』 2013年4月13日からKAAT神奈川芸術劇場にて上演。 http://www.kaat.jp/pf/miminashi2013.html



「訊いてみた。」の最新記事