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横浜でカウンセリングルーム「文庫こころとからだの相談室」を開設、その後「文庫こころのクリニック」の院長となられ、ひきこもりを考える市民ネットワークの呼びかけ人でもある精神科医の関口宏先生に、ひきこもりの心理と親の対応の基本原則などについてお話を伺いました。

(聞き手 ヒューマン・スタジオ代表 丸山康彦)



Q 先生は若い頃、ひきこもりではないけれどニートだったそうですね。

私は高校を卒業した18歳から、医学部に入るまでの6年間を、今でいうニートとして過ごしました。当時はそんなしゃれた言葉はなく、いわゆる「プー太郎」でした。

6年間のうちの後半の約2年は、大学入学のための受験勉強をしていた期間でしたから、本当のニート期間は前半の4年間といっていいかもしれません。
親には「大学に行かせたつもりで4年間好きなことをさせてくれ」と言いましたが、親もそんなに甘くはなく、言い争いが1年近く続いて、カッとした私がなぐって壁に穴を開けるなどということもありました。

その4年間は、友人たちと映画を作ったり、同人誌を出したり、シュルレアリズム(超現実主義)運動をしたりと、様々な人と出会い、様々な出来事を体験したり。新鮮な日々を送ったいわば「魂の大学」だったと誇りに思っています。

Q ひきこもりの場合はそこまで活発に動けないわけですが、先生は「ひきこもりとは何か」「ひきこもりの心理と親の対応の基本原則は?」についてどのようにお考えですか。

ひきこもりの心理の三大柱は「羞恥心」「自責」「苦悩」です。自分は他の人と違ってダメな人間だ(特に働いていない)という負い目が強く、その「羞恥心」から、人との接触を避け、自ら友人・知人とのつながりを切り捨ててしまいます。

そして人と同じことができない自分を責め続けます-「自責」。さらには自分は一生このままなんだという、未来の見えない「苦悩」にさいなまれます。
ひきこもりとは、一見なまけているように見えても、そうやって24時間自分自身との孤独な戦いを送っている人たちなのです。

親の対応の基本原則ということですが、残念ながらこれが正解というものはありません。一例一例手探りで探っていくしかありません。

ただ決してやってはいけないことがあります。それは「叱咤激励」することです。さらによく親が言ってしまいがちなのは、「親に甘えるのもいいかげんにしろ」「いつまでこうしているんだ」「さっさと働け」などの叱責です。それは当事者にとって「脅し」に聞こえます。

ひきこもりの人たちは動きたくても動けないわけですから、こういう言葉をつきつけられると追い詰められて絶望にかられて何をするかわからない状況に追い込まれます。

ひとつ参考になるのは、うつ病の患者さんに対する接し方の基本です。それは「好意ある無関心」で対応するというものです。すぐに親のエゴや不安をぶつけるのではなく、あたかも猫と暮らしているかのように良い意味で放っておくということです。
私はひきこもり当事者の当面の目標を、「働く、働かないではなく、楽になること」としています。自分自身との戦いを終わらせて、当事者を楽にさせるような対応が大切だと思います。

Q 先生は親御さんの受診を勧めていらっしゃいますが、今おっしゃったように親御さんが本人を理解し適切な対応をとるようになると、どのような変化や経過が期待できるのでしょうか。

先ほど述べたように、当事者が楽になることが大切です。そうすれば自分自身との戦いのプレッシャーからも解放され、ようやく人心地つくようになります。そういう心の余裕が出てきてはじめて働くこともできるようになるかもしれません。そのためには、まず親御さんの方から楽になってもらいたいと思っています。また親御さんが先に精神科にかかることで、当事者もかかりやすくなるのではないでしょうか。

そこで私は、当事者の状況を改善することを本旨として以下のご提案をします。

私自身、当事者を精神医療に囲い込むつもりはありません。しかし精神科にかかることで、本人がいくつかの社会サービスを受けることができます。そのひとつに障害者年金があります。

私は当事者が30歳になったら、障害年金をもらうことも選択肢のひとつだと思っています。2級で月に6万6千円程度ですが、いわば家庭内自立ができます。

自分の意思で動くにはお金がかかります。それをいちいち親の顔色をうかがいながらではなくできるようになるのです。ですから、30歳をすぎた当事者には精神科に受診することも選択肢に入れてもらいたいと思っています。

それを勧めるにはコツがあります。「病院へ行け」と言ってしまっては、「オレは病人ではない」という当事者の反発を招くだけです。その代わりに年金という社会サービスを前面に出して言うのです。それでも精神科にかかるまでに2、3年かかることを覚悟しておいてください。

しかし本当は年金をもらうことは方便でもあります。自分の意思で私どものところへ来てもらい、私どものやっているフリースペース等につながってもらって、仲間作りをしてもらうのが真の目標です。
(※以上のような社会的サービス等に関する考え方は、全ての精神科で同じというわけではありません)

Q 2002年、神奈川県内の親の会などに呼びかけてひきこもり支援ネットワーク「ヒッキーネット」の結成に大きな役割を果たされました。ひきこもり状態の方の親御さんに、親の会はどのような役割を担っていると見ていらっしゃいますか。

親の会の第一の意義は「一緒に楽になる」ということです。不安を一人で抱え込まず、皆で分け合うことが大切です。今まで不登校・ひきこもりの親の会がやってきたことは、他の支援機関や医療機関のやってきたことよりも大きな役目を果たしてきたと思っています。身近に親の会がありましたら、まず他にかかる前に参加してみてください。

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Q 親の会のほか、県内には多くの支援機関が活動しています。多くの親御さんは本人がそれらを利用することを望んでいらっしゃると思いますが、そのことをどう考えていらっしゃいますか。またそのために親御さんにできることは何でしょうか。

ひきこもり状態から強引に抜けさせる、就労させるとうたう援助機関があります。私はそれらに危惧の念を覚えずにはいられません。強引に引き出された人、就労させた人たちのかなりの部分が、また再び元の状態にもどってしまったというケースを耳にします。

私たちは「自発性」というのを重視したいと思います。動き出すきっかけが例え10年、20年かかっても、私は本人自らが動き始めることを重視しています。
どこにどんな支援機関や医療機関があって、どんなことをやっているのか、その生きた情報が手に入れられるのが各地の親の会でしょう。

【関口宏】

1957年 神奈川県に生まれる。1987年 佐賀医科大学を卒業。精神科医、臨床心理士。日本児童青年精神医学会会員。
2001年 横浜でカウンセリング専門の相談機関である「文庫こころとからだの相談室」を開設すし、その後、医院「文庫こころのクリニック」として新たに運営を開始、現在に至る。
ひきこもりを考える市民ネットワーク「ヒッキーネット」の呼びかけ人となり、地域に根ざした精神保健福祉活動を展開中。

【丸山康彦】

1964年東京生まれ。不登校のため7年かけて高校を卒業。大学卒業後、高校講師となる。退任後ひきこもり状態になり、社会復帰に7年を要した後、個人事務所を経て2001年に民間非営利相談機関「ヒューマン・スタジオ」を設立し代表。「ひき☆スタ」編集部員。

※写真は「文庫こころのクリニック」の診療室、外観、カウンセリング室です

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