大阪ハムレット 2 (アクションコミックス)
大阪ハムレット 2 (アクションコミックス)
森下裕美
2007年
双葉社
148ページ

「読んでみた。」史上初となるマンガの登場!

「読んでみた。」も通算29本目の記事!こうもたくさん書いていると、だいたいの領域は制覇したんじゃないかと思っていたりして。 でも、本の世界はやっぱり広い。今回取り上げる本「大阪ハムレット」は「読んでみた。」史上初のマンガとなります!

「大阪ハムレット」は2005年に連載がスタートし、現在4巻まで刊行。ショートストーリー形式のためそれぞれが違う物語だけれど、過去の登場人物が脇役として(時にはキーパーソンとして)出演する場合もある。2006年には第10回文化庁メディア芸術祭のマンガ部門で優秀賞を受賞するなど、高い評価を受けているよ。
著者の森下裕美さんは、あの大人気4コマ漫画「少年アシベ」の作者でもあります。その後も4コマ漫画の作品を多く描いているけれど、近年は現代社会における同性愛の行方を描いた「夜、海へ還るバス」など、社会的マイノリティをテーマにした作品も見られる。この「大阪ハムレット」も、そうした作品の一つと言えるね。

今回、数あるストーリーの中から、2巻に収録された「十三の心」「大阪踊り(前編・後編)」を取り上げます。この2作は、主人公にひきこもり的な資質があると感じたので選んだよ。どちらも先にあらすじを書くので、ネタバレに注意!……といっても書評を読んでもネタバレになるので、気になる方は先にマンガを読んでみよう(^O^)

今月は、まず「十三の心」から読んでみましょう!

「十三の心」

【あらすじ】※ネタバレ注意
主な登場人物

東 直子……13歳の女子中学生。
東 瞳……直子の姉。22歳の社会人。
岩井先生……直子の中学校の男性教師。

直子は自分ひとりだけの世界を妄想し、友達をつくらず学校でも問題児扱いされている。家庭では年の離れた姉・瞳が妻子持ちの男性と不倫しているのを目撃し、チャラチャラした姉をますます軽蔑するようになる。
その後も自分の世界に閉じこもろうとする直子だったが、学校で岩井という男性教師に「短歌」「俳句」の世界を教えてもらい、その美しさに衝撃が走る。そして岩井に対しても心を開き、徐々に惹かれていく。
しかしその折、姉の瞳が不倫相手と家出をする。両親が慌てふためく中、電話が鳴る。直子が取ると、電話は岩井からだった。両親によると、岩井は瞳と微妙な関係にあったらしく、瞳の行方を探しているのだという。その後瞳から両親へ「いっしょに死にます」とメールが届く。それを見た直子は「お姉ちゃん、死んで。死んで最後に尊敬させて」と心の中でつぶやく。
しかし翌朝、何事もなかったかのように瞳が帰宅。直子は岩井に提出するはずだった詩作の宿題をやらず、再び自分の世界へと閉じこもる。「俵万智ぐらい書かな、シェルター買えへんやろな」と、妄想はさらに広がる。

書評

主人公の直子は、学校や家族といった身の回りの社会をどこか斜に見ているところがある。その原因は、直子が姉・瞳を軽蔑していることにあるようだね。瞳は直子とは正反対の性格をしているのだけど、ストーリーの中で、瞳が直子に対し、不倫の事を誰にも話さないよう迫るシーンがある。この時の瞳のキツい表情を、直子は彼女の本性だと看破し「アタシ 誰にもしゃべらんよ お姉ちゃん怖いからな お姉ちゃんの目 怖いねん」と心の中でつぶやく。普段は恵まれた器量や甘えるような仕草を生かし、ひょうひょうとして社会を渡り歩く瞳の二面性。直子は、そうして器用に生きる人間を、信頼していないのではないかと思うな。

それでは、直子はどういった生き方をしたいのか。そのヒントを示唆しているシーンがあるよ。直子は岩井先生の誘いで短歌や俳句の世界に惹かれ、岩井先生の母校にある文学部を訪れる。そこの部長に短歌を作る時の心がけを尋ねると「ありのままの自分 エエカッコとか飾ろうとか思たらアカン それだけや」と返ってきた。この言葉に直子は深くうなずいている。

短歌や俳句は字数や形式が決められており、ごまかしが効かない。閉じこもりながらも、頭の中で考えていることをストレートに表現したい直子にとって、短歌や俳句は自分が生きていく上で格好の舞台だと感じたのではないかな。

しかし、岩井先生に心が惹かれている直子は、短歌をつくる際に「東 ようやったとホメてもらわな!」という打算な気持ちで取り組んでいる。中学1年生の淡さが表れているシーンでもあるけど、直子が閉じこもっている状態から心を開きかけた貴重な場面でもあるね。

この直後、姉の瞳が自殺をほのめかす、本作品のクライマックスに入る。ここで、直子はそれまでになかったようなあらゆる感情がないまぜになる。惹かれていた岩井先生への軽蔑、その岩井先生を裏切った姉への憎悪、そして自殺したことへの悲しみ……。しかし、瞳は死んでおらず、再びひょうひょうとした足取りで普段の生活へ舞い戻る。一瞬でも姉を信じた私がバカだった……とばかり、直子は再び閉じこもる。しかし、最後に俵万智より稼ぐことを妄想しているように、直子の目標ははっきりした。将来完全に閉じこもるため、短歌や俳句の腕を磨いてお金を稼ぐ。以前「読んでみた。」で「非社交的社交性」に登場した「半隠遁」という言葉が、ぴったりくる話だな~。

「大阪踊り(前編・後編)」については、来月掲載予定です!こちらもお楽しみに(^O^)

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ひきこもり本マイスター

星こゆるぎ

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