ひきこもり経験の社会学表紙

「ひきこもり」経験の社会学
関水徹平
2016年
左右社
371ページ

主題はひきこもり当事者が語る「経験」=「言葉」

どーもこゆるぎです!久しぶりに書評書きましたよ~(^O^)

今回紹介するのは、2016年10月に発刊された「ひきこもり」経験の社会学です!
著者は、立正大学で講師をしている、関水徹平さん。
著者自身はひきこもりの経験はないけれども「存在していることの不条理さ」を感じており、そのこととひきこもり当事者が経験する「自分で選択したわけではない諸条件のもとで生きざるを得ない」不条理さとが結びついたそうなんだ。

この本は自身の博士論文をベースにしており、ひきこもりを多角的な視点から探究している。戦後日本が辿った「生活保障」(このことは、藤原 宏美 (著), 関水 徹平 (著)「独身・無職者のリアル (扶桑社新書)」にも詳しく書かれているよ)や、エリクソンの自己アイデンティティ論など、学問的な分野で構成されている。
例えば「生活保障」について扱った章では、公的扶助について他国と比較し、とりわけ日本は家族に対する公的サポートが手薄だと指摘。家族への負担が過重となることが、家族にとっての「ひきこもり」問題の一端であると論じている。
こうして様々な側面から「ひきこもり」について考えている本なのだけど、筆者が最も大事にしているのは、当事者が語る「ひきこもり」経験への「問い」なんだ。ひきこもり「状態」や、ひきこもりと「メンタル」の関係、それに「社会問題」としてのひきこもり、といったことをテーマにした本ではない。「ひきこもり」という語について、当事者が語る「言葉」を主題にしているよ。

「経験者」と「経験者以外」が語る「ひきこもり」の違い

そもそも、「ひきこもり」という言葉は一義的なものなのか。筆者は「ひきこもり」という語の語り手をひきこもり「経験者」と「経験者以外」に分け、さらに「他人の経験」と「自分の経験」と、計4つに分けたよ。これは、「ひきこもり」という語一つを取っても、語り手が異なれば中身が全く違ってくるということの実証なんだ。
特にわかりやすいのは、「経験者」と「経験者以外」の大別だろう。「経験者以外」(自分以外の家族、精神科医、周囲の人々、それにメディアのコメントも入ると思われる)にとっての「ひきこもり」とは、「はやく抜け出すべき状態」、「治療すべきもの」といったように「非難」「同情」「心配」される対象となる。つまり「ひきこもり」が解決すべき「問い」として解釈されているんだ。
一方で、ひきこもり「経験者」による「問い」とはどのようなものなのか。このことを調査するべく、筆者は計10人のインタビューをデータとして提示し、そのほか当事者が著した本なども参考に分析している。その結果、ひきこもり経験者が突きつけられる「問い」には「他人に与えられた問い」と「自分の問い」という二重性があることが明らかになった。「他人に与えられた問い」とは、前に書いたように「解決すべき状態」という解釈を指すものだけれど、それが「不適応な自分をめぐる葛藤」などを含む、「自分の問い」の言語化を阻んでいると指摘する。

「ひきこもり」経験者に特徴的な点は、この一方の極にある「自分の問い」に自覚的に取り組むこと自体が、極めて困難な状況にあるということだ。多くの「ひきこもり」経験者たちが、与えられた<問い>によって自分を責め続ける。自分を責めることに対し、もう一方の極――「自分の問い」――に取り組む余裕もない。

ひきこもりを経験するということは、「自分の問い」の答えを模索し、プロセスを明確にしていくことだ。しかし、経験者以外からはあるべき社会人としての「問い」を突きつけられる。あたかも「自分の問い」は価値のないことだと悲観的になり、両義の狭間で苦しむことになるんだね。「ひきこもり」とはどのような苦しみなのか、その実態が明確になったな~。

ちなみに、こうした両義性がなぜ生まれるのか、ということをこのあと展開していくのだけど、ここまでが本書全体の約1/6の内容なんだ。全部で370ページ以上もあり、論理的に書かれた文章が続く濃密な内容なので、心して掛かるように!……もしかして、自分が1/6しか読んでないだろうと疑われている……?笑

「問い」のプロセスは論文作成と似ている

本書のベースとなっている、論文を作るという行為は、言葉の意味を定義し、仮説を実証していくことの繰り返しともいえる。「ひきこもり」経験の「問い」も、論文作成のプロセスと似ていると思ったな。
「ひきこもり」経験は、その人個人が感じてきたことの積み重ね。ひとりひとりが異なる物語を持つものだから、言葉の定義も、実証の仕方も違ってくる。
著者は10人のひきこもり経験者にインタビューを行ったけれど、そこから傾向を割り出してまとめるようなことをせず、各人の「ひきこもり」経験を固有のものと認め、それぞれについて分析を行ったという印象を持ったよ。元が論文だから表現は固いけれど、当事者性を大事にしていると感じられるから安心して読めると思うよ!

もうひとつ付け加えておくと、本書は現状の分析だけでなく、「ひきこもり支援」の将来的なあり方についても言及している。そこでは、厚生労働省のモデルに代表されるような支援論を批判的に検討し、「主観的QOL(Quality of Lifeの略。生活の質を指す)」を軸にした、当事者と一緒に方向性を考えていく支援が不可欠であると分析している。「経験者以外」の「問い」が一方的に入り込んでいたため、必ずしも当事者のニーズに合わない支援が見られた。「経験者」の「問い」を取り入れる双方向の支援を行うことで、当事者が安心して「経験者以外」とつながれる、そうした未来像が描けるといいな。「ひき☆スタ」でも、そうした「主観的QOL」にどのようなものがあるのか、注目していきたいなと思っています!

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