若者が無縁化する: 仕事・福祉・コミュニティでつなぐ (ちくま新書)
若者が無縁化する: 仕事・福祉・コミュニティでつなぐ (ちくま新書)
宮本みち子
ちくま新書
2012年2月発行
214ページ

本書の概要

 リーマン・ショック以降、日本では高校や大学新卒者の内定率がますます下がり、ワーキングプアやニート、フリーターなど定職を持てない若年層の増加を引き起こしている。また、正規雇用となっても厳しい労働環境で心身を壊して失業する例もあり、伝統的な終身雇用制と労働を取り巻く現状にズレが生じている。これらのことは不況だけが原因ではない。高齢者が中心の社会保障制度や、働けない若者への認識不足などが障壁となっている ―― そういった観点から、本書では労働市場で最も困難な状態におかれた若者に焦点を当て、労働市場の選別化から排除されがちな若者の実態を見据えた検討をしているよ。

若者が社会的弱者になるのは、労働市場の構造が変わったから

 世間の関心がニートやフリーターに集中し、労働市場問題が若者の意欲問題へと転化されることについて、筆者は真っ向から否定している。

 問題の根本にあるのは労働市場の構造的変化だ。労働市場が縮小したことで、一般社会は若者を採用する段階で既に高い能力を要求している。このことによって、労働市場は二極化してしまう。安定して働ける正規雇用の層と、不安定な就労を強いられる、または職に就けない層だ。

 これは生活レベルでいうところの「勝ち組、負け組」と呼ばれる構造にもシフトされると思われるね。筆者は若者の就労について自己責任論で片付けることに待った!をかけ、労働市場の問題を大局的に捉えているんだ。

若年層向けの社会保障の充実を

 フリーターやニートの増加傾向にあった2000年代は、日本でも様々な施策が採られた。具体的な取り組みとしては、フリーターの就労を支援する「ジョブカフェ」や、ニート状態にある若者を支援する「若者自立塾」などの開設。「ものづくり立国」と称し、就業機会の創出などにも力を入れていた(ものつくり大学の開校もその一例だよ)。

 しかし、こうした施策には課題も残った、と著者は評している。これらの政策は労働力としてプッシュする供給サイドに偏り、企業にとって使い勝手のよい流動的な労働力編成がなされていたというんだ。

 それを裏打ちするように、2008年、国際経済全般について協議することを目的とした国際機関であるOECD(経済協力開発機構)は日本に対して、若者支援のために職業訓練制度を拡充するとともに、若年非正規労働者向けの社会保障を充実する必要があると勧告した。

 日本では、正規雇用労働者は厳しい解雇規制で守られているため、柔軟な雇用調整が困難だ。そのため、人員整理の可能な非正規雇用者を増やす一方で、正社員の長時間労働が常態化するという弊害が生じている。ここを問題視したんだね。

 OECDはヨーロッパや北米の先進国が中心となった国際機関。ここに参加している国々が行なってきた大局的な政策について、本書ではいくつかの具体例を紹介しているよ(元々ニートという言葉も、OECD加盟国であるイギリスで、労働に就けない若年層を指したことが由来だしね~)。
 例えば、オランダでは常勤雇用とパートタイムとの賃金と社会保障を解消する政策をし、デンマークでは、30歳以下の若年層に対し、失業して6ヶ月後に就業訓練や教育プログラムに参加することを義務付ける、など。ふーむ。

解決への提言

 2010年4月に「子ども・若者育成支援推進法」が施行されている。この法律は、2000年代に顕在化した子ども・若者の問題に対して、国と地方公共団体と民間が連携して取り組むための基本理念を打ち立てたものだ。この法律制定の前段階にあった2004年「若者の包括的な自立支援方策に関する検討会」で委員会の座長を務めた著者は、以下のような提言をしているよ。

大人への移行の長期化に内在する諸問題を認識するのが遅かった。近年ようやく社会的関心が高まり、国としても対策に乗り出した段階にあるが、それらは雇用対策が中心となっているのが現状である。また、現在の若者問題は、景気が回復すれば解消されるという楽観的な見方や、原因を若者自身の自立意識の甘さからくるものとする見方も根強くある・・・・・・若者の実態はもっと複雑で、総合的視野で理解する必要性のある問題であることを指摘したい。


現代社会で「働きがい」を見つけたい

 本書では「労働市場の構造」の変化を描くことによって、なぜ若者がフリーターや非正規雇用者といった社会的弱者となるかの根本についてわかりやすく解説していると思うよ。これは人間の「働きがい」の問題への洞察にもつながるよね。労働観について、繊細な気持ちで接しているニートやひきこもりの人にも関係が深いんじゃないかな。

 ニートやひきこもりの生活実態といったところには迫っていないけども、包括的に日本の労働問題を捉えることで、ニートやひきこもりが社会の中で置かれている立場も浮き彫りになってくるんじゃないかなと思ったよ。それは「甘え」といった誤った解釈によるものではない、本質的なものだ。

 「働けるだけでもありがたい」とは言うものの、労働環境は一部で劣悪なものとなっている。かつて俳優で映画監督のチャップリンは、映画の中で労働力を歯車に例えていたけど、今はそれより悲惨な場合もあるんじゃないかな。現代は工業社会からIT社会へとほぼシフトしてきて、一見生活は便利になり、業務も効率化されてきたように思えるけど、そのシステムを作って支えているのは、低賃金で厳しい現場を任される労働者だって場合もある。こうした人々は「デジタル土方」なんて呼ばれる。これは一例でしかないけど、社会を発展させるはずが、労働者の心を蝕んだり、働きがいを失わせては本末転倒だよね。

 そういうわけで、ニートやフリーターをただ社会に押し戻すだけの政策には反対、という著者の主張は自分も賛成。若年層向けに「働きがい」を見つけるための社会保障が充実していくとするならば、どういった効用が起こるのか。非常に興味深いね。

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