ひきこもりの家族関係 (講談社プラスアルファ新書)
ひきこもりの家族関係 (講談社プラスアルファ新書)
田中千穂子
講談社+α新書
初版2001年
再版2007年
221ページ

臨床心理士である著者の相談体験から展開

 著者はこの本を書いた当時は大学の助教授だったが、それ以前は開業クリニックの精神神経科に臨床心理士として勤務していた、という経歴の人物。自身では「ひきこもり」の治療の専門家ではない、と前置きしているけど、閉塞し孤立した状態にいる子どもたちを現場で大勢見てきた立場から問題を提起。そうした経験の中で実際にあった相談のケースを紹介し、そこで心に残った感覚、語られた言葉や雰囲気を思い起こして詳細に書いているよ。

私自身は「ひきこもり」という現象は、その人の社会との関係をめぐる問題であり、その底流に「対話する関係」の喪失がある、つまり人と人との関係性の原点における障害ではないか、と捉えています。

 著者はこうした主張を軸に、本人が体験した相談事例に沿って持論を展開していくよ。

ひきこもりは「悪」ではない

 相談に来た親の願いは、「早く”普通”に戻したい」ということなのだけど、著者はそういう立場に立つことを否定している。では臨床心理士である著者は、ひきこもりについてどう考えているのか。

私はひきこもりを、単に困った状態、悪いこと、通常の道からはずれた状態で、なるべく早くもとのレールに戻さなければいけないもの、というようには考えていません。

 ふむふむ。
 著者は、おとなの価値観に縛られてきた子どもたちが、自分の人生を賭けて何かを訴えようとしているのが「ひきこもり」ではないか、と考えているんだ。

当事者の母親を一人の女性として

 著者はひきこもりの子どもを持つ母親の半生にもスポットを当て、問題の根深さを推察している。母親である女性が自分の生き方を考え抜くと「関係性の希薄さに対する、根源的な不安」に突き当たるという。その不安が世代を超えて受け継がれ、当事者である子どもによって、親である自分の生き方を突きつけられる。女性の心の中には、こうした空虚感とでもよべるような心の中心軸の欠損感、自信のなさがあるのではないか、と書いているね。

当事者と親、それぞれが持つ人間存在

 当事者や親そのものが注目されることがあっても、当事者の子どもを持つ母親を女性としての視点から観察しているのは、女性の著者ならではの視点で、とても貴重だと思う。そして、親から子への不安の継承は、親世代が育った戦後の高度経済成長期と関係性があるのではないのかな。

 この時期にモデル化されていった教育から就職への構図は、現在でも続いているよね。結婚し家庭を築いた親は、この時代をいわゆる「健全な」人間として乗り越えたのか、それとも騙しだまし切り抜けたのか・・・・・・どちらにせよ、親の大半はひきこもりを経験することなく今に至ってる。その親の子どもが生まれた時から敷かれた人生のレールを歩くことに違和感を持った時に、親に相談できなかったり、突っぱねられたりして、親子の溝は深まる。本書を読んでいると、当事者と親、それぞれの人間存在観のすれ違いが「ひきこもりの家族関係」を生むのではないかと思ったよ。

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