下流志向〈学ばない子どもたち 働かない若者たち〉 (講談社文庫)
下流志向〈学ばない子どもたち 働かない若者たち〉 (講談社文庫)
内田樹
講談社文庫
2007年初版
277ページ

現代人を「消費主体」として見る学術的な問いかけ

 大学教授(当時)の著者が「学びからの逃走・労働からの逃走」をテーマにした講演についてまとめた本。本書の中では、他の学者らの教育論を咀嚼(そしゃく)しつつ持論を展開しているよ。

 まず「なぜ子どもたちが勉強をしなくなったのか」という問いについて「子どもたちは就学以前に消費主体としてすでに自己を確立している」と語っている。この「消費主体」という言葉がキーワードになってくるよ。

 本書によれば、例えば30年前の子どもは、家事によって「労働主体」として自分を立ち上げていた、という。家事を手伝うことで家庭という小さな社会に参加できた。ところが今は、家事に参加して社会の承認を得る、ということが少なくなって、労働よりも先に、お金を使うことによる「消費主体」として社会参加している、と見ているんだ。

 では子どもが「消費主体」とはどういうことなのか。そして、このことが学びや労働からの逃走にどうつながるのだろう。

「等価交換」で社会に臨む若者たち

 子どもが消費主体だというのはどういうことなのか。授業を例にしてみよう。消費主体の子どもたちは50分のつまらない授業に対して「10分はちゃんと聞く」。残りの40分は隣の子と話したり歩きまわったりいしても、それは「等価交換」をした結果である、と著者は解釈している。

 しかもこうした無為に思われる行為は、律儀に、意識的に行われているという。そうすることで「学びんでほしい、成長してほしい」という学校の圧力に逆らっている、と考えているよ。

 この「等価交換」が「何のために勉強するのか」といった問いや、「自分探し」をする現代人の傾向につながっていると見ているようだよ。そして、この発想がニートの発生に関わっているのだ、と本書は展開するんだ。

ニートの実態とは?

 ニートとは元々イギリス政府の調査書の中の一文、「Not in Education, Employment or Training(教育、雇用、職業訓練に参加していない)」の頭文字をとって呼んだもの。そのヨーロッパのニートは階層化の一つの症状だけど、日本では自主的に社会的上昇の機会を放棄している状態なんだと著者は言うんだ。

 日本におけるニートのメンタリティは、先に挙げた消費主体、等価交換の発想が幼児期から確立する「幼児期における自己形成の完了」を特徴としているんだって。学校を卒業してもすぐ離職することや、「クリエイティヴややりがいのある仕事」を求める「青い鳥症候群」の若者の増加がニートを生み出す、と分析しているよ。

 でもそうしてニートになるのは決して当事者の自己責任ではなく、構造的な問題でそうなった、と論じてもいる。政府の標榜した教育方針、メディアの誘導、硬直したリスク社会などによるものだ、と。

 だからこそニートへの施策について「ニートを孤立させてはならない」ことを強調とする著者。社会的弱者とはちょっとカテゴリーの違う彼らに対し、税金を注ぐことを納税者に理解してもらわなければならないと言う。

 「ニートになったやつは自己責任だから、勝手に飢え死にしろ」というロジックを正論として認めれば、社会はこれからも無数のニートを生み出すことになる。「ニートを扶養する社会的なコストは認めない」とすれば、その「ニート」が増えるという逆説的な事態になる、と話しているんだ。ふーむ。

本当に下流を「志向」しているのか

 本書のこの過激なタイトルから、ニートが自らの意思でニートの道を進んでいると受け止められるかもしれないけど、著者はそういうつもりでは書いていないね。この文庫版のためのあとがきに際し、著者は以下のように述べているよ。

厳密に言えば、これを「志向」と呼ぶのはむずかしいかも知れません。「学ぶこと・労働することを拒否する人々」は必ずしも自分の意思でそうしているわけではないからです。彼らはそのような意思を持つようにイデオロギー的に誘導されているのです。

 「消費主体」による自己の形成には否定的ながらも、それは構造的な問題であって、個人のせいではない、としているね。

 ニートの実態に対する理解の薄さや、持論を展開する上で、具体例でなくイメージが論拠となっている点が幾つかあるのが気になっちゃった。それでも、様変わりする教育の現場と、労働の現場とをつなぐ「消費と労働」というキーワードを提示した持論は読みごたえ十分。著者自身が教育論やニート論は専門ではないと言いつつも、ニートの孤立を防ぐことが急務と感じた、とも話していることがすごく伝わってくるよ。

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