ドキュメントひきこもり長期化と高年齢化の実態表紙
ドキュメントひきこもり 「長期化」と「高年齢化」の実態 (宝島社新書316)
池上正樹
2010年
宝島社新書
207ページ

変わっていくひきこもりの実態

今のひきこもりの実態を調べると、若者特有のものとされていた「ひきこもり」という状態像が、年齢、時期ともに引き上がっている、というのがこの本の問題提起の土台になっているね。そこで、タイトルの「長期化」「高齢化」の2点に的を絞っている。ひきこもりはどのように変化しているのか、ひきこもりについて20年近く追いかけている著者が当事者や支援者への取材をもとに描き上げたドキュメントとなっているよ。

変質する労働に翻弄されてしまう

「不登校」の延長線上にあると思われていたひきこもり。それは裏を返せば「就労経験者はひきこもらない」という神話が日本社会にあるはずだった……ところが、最近は働く人たちが「朝、起きられない」「体が動かない」などを理由に出勤できなくなり、そのままひきこもるケースが増えているのだそうだよ。
東京都が2009年に行った調査によると、35歳以上の「ひきこもりのきっかけ」という項目で最も多かったのは「職場不適応」で、半数近くを占めたんだって。ひきこもり期間についても「7年以上」の長期が6割近くを占めており、いったん社会からはじき出されてしまうと、復帰が難しくなるという実態が浮き彫りになっているね。

なぜ仕事をしている人がひきこもってしまうのだろう。本書では仕事が原因でひきこもった方を取材し様々なケースを紹介しているね。会社の人間関係でノイローゼになった吉村さん(仮称=33歳)は、「不安障害」と診断されたという。

「ずっと家にいる間、どんなことを考えていたんですか?」と聞いてみると、吉村さんは、噛みしめるようにこう振り返った。 「自分を責めていたような気がしますね。仕事ができなくなってしまったのが、みっともないというか、みんな働いているのに、なんで僕だけ、ダメになっちゃったんだろうとか……。いろんな思いが頭をよぎりました」

景気の悪化もあって転職が難しい昨今、具合いが悪くても気持ちが焦ってしまい、ますます体が動かなくなる悪循環が働いてしまったのかもしれないね。うーむ。

この体が動かなくなってしまうメカニズムは「不登校」の延長組の「ひきこもり」と変わらないのではないか、と著者は推察しているね。自己万能感が崩壊するプロセスを受け入れられないこと、それに、就労経験のあるひきこもりに多い職種「IT産業」に見られる成果主義、合理化との相容れなさ……。日本社会が働く意義や価値を解体するように変質する中で、疎外され孤立する人たち。その中で自問自答し苦しみを重ねる姿は、すべての「ひきこもり」が共有しているということなのだね。ふむふむ。

世間が「ひきこもり」を理解するチャンス

以前に「ひきこもりがなおるとき」という、臨床心理の立場からひきこもりを取り上げた本を書評で取り上げたのを覚えているかな?そこではひきこもるという行為そのものは「状態」であるとしながらも、「不安障害」といった精神疾患との強い関連を示唆していた。先に例を上げた吉村さんも「不安障害」と診断されているね。

本書でも、吉村さんの例にとどまらず、こうしたひきこもりと精神障害の相関について重要視している。それによると、この関連性を国も認めているんだって!2010年に厚生労働省が専門機関向けに公表した「ひきこもりの評価・支援に関するガイドライン」(新ガイドライン)には

「ひきこもりは原則として統合失調症の陽性あるいは陰性症状に基づくひきこもり状態とは一線を画した非精神病性の現象とするが、実際には確定診断がなされる前の統合失調症が含まれている可能性は低くないことに留意すべきだろう」

と定義している。また、この新ガイドラインに関して公表されたデータでは、当事者152人を診断したところ、8割以上の人に精神疾患が確認されたという。この時のガイドライン改定を、著者は肯定的に捉えているね。

ひきこもりは単なる「怠け」や「甘え」ではなく、本人のやる気や努力次第では、どうにも体が動かなくなる、目に見えない特性というかメカニズムであることが、国の研究報告で明らかになった意味は大きい。

「障害」という表現が世間に誤解や偏見を招きやすく、当事者にとっても受け入れがたいかもしれない。しかし、企業や社会が精神疾患の症状が当事者に広く存在していることを理解し、許容するチャンスでもあるということなんだね。「障害」という表現をやわらげ別の言葉に変えたっていい。そして、当事者への対応に具体性や根拠を持たせることで、支援者側にも大きなヒントになるかもしれない。本書でも当事者の特性を見極めて新たな支援方法を提案する団体の事例をいくつか紹介しているよ。

また、以前書評で紹介した「軋む社会」の著者、本田由紀さんのお話を一部で引用しているので、「軋む社会」と合わせて読むともっと理解が深まるかもしれないね。

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