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学校過労死―不登校状態の子供の身体には何が起こっているか
三池輝久(熊本大学医学部 小児発達学教室教授)
友田明美(熊本大学医学部 小児発達学教室)
1994年
診断と治療社
131ページ

医学的に「不登校状態」を分析する

今回は投稿でリクエストをいただいた本「学校過労死」の書評となります。どんな本なのかな、と表紙を見てビックリ(すみません、今回は表紙画像がありません。。)!何やら医療の現場で見かけそうな脳の検査写真……(・o・) この本では、不登校の子どもや学生たちの身体を診断し、どのような異変が起きているから調べたものなんだ。

メンタルヘルスの面からひきこもりや不登校を取り上げた本は「ひきこもりはなぜ『治る』のか?」「ひきこもりがなおるとき」でも紹介したけれども、本書では血液や眼、それに脳など様々な部位を細かに診断している。難しい本なのかな……と思って開いてみると、たしかに診断データの図表はチンプンカンプン(笑)、だけど順序立てて分かりやすく丁寧に書かれているし、分量も少ないのでとても読みやすかったよ!そして、不登校に対し「甘え」や「怠け」といった偏見を向ける現代社会に厳しい警鐘を鳴らしており、何とか世間の先入観を変えたいという意気込みを強く感じます!さてさて、不登校状態の子どもの身体に何が起こっているのだろう。

「脳」が疲れて不登校状態に?

本題に入る前に、不登校に対する大人たちの一般的な理解はどのようなものだろう?朝起きられない、授業中に居眠りする、頭痛や吐き気を起こすといった子どもの訴えを聞いて「気持ちの問題」と思っている人もいるのではないだろうか。実際、不登校状態の子どもたちを診ても異常が見つからないため、そういった形で片付けられることが多いのかもしれないね。そして、不登校状態の子どもたちは学校に行くことを自分の意志で拒絶し、自らそうした生き方を選択している、と捉えるかもしれない。しかし、著者はそうした認識は間違っていると主張している。むしろ、現代の大人社会が抱える行き場のない「過労死」の問題と、何ら変わらぬことが学校社会で起きていると話しているんだ。
当事者たちの訴えに耳を傾け、これまで「科学」されてこなかった不登校の解明を進める本書では、どのように不登校状態について分析しているのか……。

本書では当事者たちの血液、自律神経、脳波など様々な視点から検査し、不登校状態にある子どもたちの脳が疲労し、さらに生体リズムが破綻している、という結論に至っている。
「脳が疲れる」とは、どういうことなのだろう?不登校には様々な原因があるけれども、そのどれもが自らの意志で選択したものではなく、パニック状態や無気力による「自己防衛」として不登校になる、と著者は書いているね。
例えば、小学校低学年の不登校例で見られるのは、「人生で初めての衝撃的な脳の学習が起こる」ためにパニック状態に陥るというもの。明確な理由がなくても不登校状態になるのは、学校という場所が情報に溢れているためにそれを脳で処理するのに疲れるのだという。
また、小学校高学年や中高生に見られるのは、長時間にわたる慢性的な疲労。学校生活を続けてきた中で知らず知らずのうちに身体や脳機能が疲弊し、学校生活で必要な記銘力や集中力が低下。さらに自律神経に及ぼす作用から生活リズムが昼夜逆転してしまう。そのために勉強がはかどらず成績が落ち、周囲や先生からも冷ややかに見られてますます自分を追い込む悪循環が起こるんだって。そうした情報をシャットダウンするため、生理的な反応として学校へ行けなくなってしまうのだね。ふーむ。

しかし、学校を休んでしまうことが、子どもたちをますます焦らせてしまう。少しでも学校に行かなくなると、勉強で置いて行かれて将来を悲観するからだ。それは子どもたちにとって人生のレールを踏み外すことを意味し、さらに大きなプレッシャーがのしかかるんだね。著者は、こうした休むことの許されない学校教育についても強い異議を唱えているんだよ。

以上のように学校と不登校を結びつける状況について、以下のようにまとめている。

……不登校は、「彼らが積極的に学校へ行かないで生きる生き方を選んだのではなく、脳機能の疲労による情報処理力低下のため勉強できなくなった(登校できなくなった)」学校過労死状態である……。
不登校状態は「彼らの性格とか病理に端を発する個人的な問題として処理できるような単なる病気とは違っており、現代の学校社会がもつ病理が彼らの健康状態に異変をもたらしたのであり、学校社会は彼らの学校復帰・社会復帰に対し積極的に責任を負うべき状態」である……。
彼らが背負ったこの状態は成人における慢性疲労症候群が示す背景(生体リズムの破綻)、余裕のない生活に明け暮れるわれわれ大人社会を写す鏡でもある……。

不登校状態にある子どもの「治療」

それでは、不登校状態になった子どもたちをどのように治療したらよいのだろう?これまでは「学校に戻してあげることがゴール」と考えられてきたけれども、著者は「学校に戻すことだけが治療ではない」と考えているね。これまで書いてきたように、不登校の背景には脳の疲労やパニック状態があるので、それをしっかり回復させなければならない、としている。また、当事者たちのほとんどが学校復帰を望んでいる、と前置きした上で「学校に戻る戻らないは本人の意志で決めるべき」とも考えているね。

当事者の疲れを癒やすには、何よりも休養が必要とのこと。特に都合のよいタイミングは、休んでいても勉強で遅れを取らない「夏休み」がベストだとしているよ。そして2つ目のポイントとして、「よく遊ぶ」ことを挙げている。脳が疲労する循環は「うつ病」とも相関があるため、遊ぶことで生きる意欲を強くしてあげることが大切なんだって。ただ、不登校は原因や症状など、人それぞれの部分も大きいから、親と学校がどのようなタイプの不登校状態なのかを理解し、適切な対応を取ることが求められている。

いま、教育に求められるもの

さて、不登校の本質を生物学的に解析した本書について駆け足で見てきたけど、実際は様々な事例やデータを示しながら不登校状態になるメカニズムをじっくり説明しているし、学校教育の問題点をいくつも指摘している。興味のわいた方には実際に手に取ってほしいと思います。

本書の冒頭では「増え続ける不登校」と題し、1992年の小・中学生の不登校者数は7万人と紹介しているのだけど、この本が出た後も不登校者数は増え続け、2001年には13万8千人以上にもなっているんだ。この間、少子化で小・中学生の総数は減っているから、不登校者数の割合は年々増えていたことになるね。最近の調査結果となる2011年に至るまでには不登校の数は減っているけれど、生徒総数そのものが減っているので状況が改善されたとは言い切れないし、1992年当時の1.6倍強と、高い数字を保ったままだ(1)。

不登校の予防のために、著者は「知識詰め込み型、早押しクイズ的教育の見直し」「根性や頑張れといった日本的な価値観の見直し」「休養をとっても学校(職場)に復帰できる環境を整える」など、教育や職場環境の抜本的な対策が必要だとしているよ。その上で、次のように書いているね。

一度学校という電車を降りると同じ電車に乗ることはかなり困難となり苦痛を伴うものです。……私たちの誰もが、私たちの子供の誰もがこのような状態になりうる社会に住んでいるとの認識が必要です。

前回取り上げた「ドキュメントひきこもり」では就労者のひきこもり事例を取り上げていたけれども、それと同様の事態が学校でも起きている。そしてどちらの本も体調不良を病気と認識することが大切なのだと書いていることにも気がついたよ。

また一方で、こうした体調不良によるものではなく「社会的なひきこもり」という要因も存在します。書評では以前「ひきこもれ-ひとりの時間をもつということ-」 「存在論的ひきこもり」といった本を取り上げているので、そちらも合わせて読んでみると、別の側面からも理解が深まると思うよ。

(1)(文部科学省「平成23年度『児童生徒の問題行動等生徒指導上の諸問題に関する調査』結果について」PDFファイル48ページより) http://www.mext.go.jp/b_menu/houdou/24/09/1325751.htm

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