過去の不登校体験を私小説化し、インターネット上に公開している裕澄さん(20代女性)へのインタビュー後編です。 過去の辛い体験を赤裸々に書こうと思ったきっかけや、今後書いてみたいテーマについて語っていただきました。 後編も、step(神奈川県内の自助グループ)世話人の近藤健さんがインタビューしています。 インタビュー前編はこちらからご覧ください!

ゆうすみさんのイラスト

<裕澄(ゆうすみ)さんプロフィール> 神奈川県在住。約5年の不登校経験を経てアルバイトをしながら2014年よりWebサイト 「小説家になろう」にて小説を投稿開始。 小説以外にもボランティア活動など様々な活動を行っている。 特撮ヒーローやゲームも好きな多趣味だが、 本気で芸人を目指した程のお笑い好き。 「小説家になろう」裕澄さんのページはこちら。 https://mypage.syosetu.com/437004/

過去を「浄化」するためには全てを書き切るしかない

パソコンを操作している女性の画像

(近藤)自伝的な私小説「心の傷は今でも私を苦しめる。」では、いじめられた体験を赤裸々に書いていて、すごいなと思いました。

ゆうすみさん実は高校のときにも書こうと思ったのですが、そのときは中学校のときの記憶が浄化できず、途中で止めてしまったんです。自分の中では完結していたつもりだったのですが、それでも振り返るのは辛いな、と感じました。

私は昔、テレビでわかったフリをしていじめについて話している大人が大嫌いでした。 ところが、私がとあるセミナーでゲストスピーカーとして話す機会がありました。このときに原稿を自分で作ったのですが、主催側の意向で添削されまして。当日は添削された原稿に沿って話したのですが、参加者からは「そんなきれいごとを聞きたかったわけじゃない」と言われたんです。

(近藤)主催側としては「コミュニケーション能力を身につけて立ち直りました」みたいなコメントが欲しかったということですか?

ゆうすみさんそうですね。でも、自分は絵に描いたようなきれいな人間ではないし、講演ではそういうところに着地したいわけでもなかったんです。 昔、自分が嫌いだった大人に、自分がなってしまったような気持ちでした。だから、誰にも添削されないところで、炎上してもいいから好きなことを書いてやろうと思ったんです。

(近藤)実際に炎上したことはあるんですか?

ゆうすみさん炎上というほどではありませんが「心の傷は今でも私を苦しめる。」へのコメントで「この話はお前の過去の墓場なのだから、あまり直接的な表現をせずほじくり返すな」と言われたんです。でも私は、感じたことをそのまま書いているだけなんです。あと、勢いに乗って書くので「句読点が多すぎる」と言われたり(笑)

(近藤)好きに書いていると、ぐるぐるしている気持ちを取り出して分離される感じがしますよね。

ゆうすみさん自分の暗い体験を作品に融合させることで、モヤモヤを消化しているような感じですね。そうやって書くことで、いじめられていたころのことをきっぱり片付けて浄化させようとしているのかもしれません。

(近藤)ぼくは高校生のときに私的なことをノートに書いていたのですが、インターネットに公開する際に気をつけていることはありますか?

ゆうすみさんインターネット上でも好きに書いているとはいえ、最低限のリテラシーは守るように努力しています。それと、相手に伝わりやすいように、ということを意識しています。

(近藤)裕澄さんは、小学校のときの体験と、自分が熱中できるものをうまく結びつけていますよね。辛い体験もたくさんあったと思いますが、生活の中に生かされていったのかなと思います。

今の生活と、これから書きたいこと

良い天気のイメージ画像

ゆうすみさん高校を卒業すればフリーター生活は安泰だと思っていましたが、採用面接や電話の際に「通信制でした」と話すと、返事が濁る人を何人も見てきました。 母は「働かざるもの食うべからず」が信条で、「期日までに働かないとご飯を出さない」と突き放されたので必死に仕事を探しました。今はなんとか働き口を見つけ、休みの日に好きなことをしています。

(近藤)アルバイトでも、経歴に対して非常に厳しい見方をされるのですね。 話は変わりますが、友人関係については、なにか意識していることはありますか?

ゆうすみさんこれまでは、自分が心を開くための第一関門、第二関門みたいなフィルターを作りすぎていて、友達や親友とは何なのかわからないでいました。20歳になって、やっと仲間と思える友人ができたかな、と思います。「ここまでは自分を見せてもいい」というラインが、友人の定義になるでしょうか。ただ、以前に人間関係で痛い目に遭った経験があるので、これからも仮面を被って心の壁を作りながら人と接していくのだと思います。

(近藤)それでは最後に、今後小説にしたいテーマについて教えてください。

ゆうすみさんお笑いの世界をモチーフにした小説を書きたいな、と思っています。夢を追いかけていくようなものがいいですね。私を支えてくれた人たちへ、お笑いで恩返しすることは諦めましたが、自己満足のついでに同じような悩みを抱えている人が読んでくれたら嬉しいです。


近藤健が大船観音を背景に観音様と同じポーズをとっている写真
<取材者プロフィール> 近藤 健(こんどう・けん)step世話人 家庭教師 2004年に学生生活を終えた後ぼんやりと、しかし平和に過ごしていたら7年が経過。2011年にハローワークの相談員に空白期間を叱責された事をキッカケに、自分を責めだし外出や日常生活を送る事が難しくなる。 その時、「ひきこもり」という単語を知り、ひきこもりの当事者・経験者による親睦と交流のための神奈川県内のサークル・stepに参加。当時の世話人の後を継ぎ現世話人となる。 step参加と併行して、よこはま若者サポートステーションの利用を開始。 その他にも様々な場所に足を運び、若年から高齢までの多様なひきこもりや新卒既卒ニート、また普通に(?)働いている人々と語らいながら自分がどんな日々を送りたいかのイメージを持つようになった。 今も家庭教師をしつつ人々の姿から学ぶ日々を送っている。 step(ステップ)https://step-kanayoko.web.app/index.html メール stepkanayoko@yahoo.co.jp

【リンク】 ・不登校体験を「浄化」したい―小説を書き続けている元当事者に訊いてみた。(前編)インターネットで友達をつくる!実践している当事者に訊いてみた。ヒューマン・スタジオ まるさん ひきこもりQOL追究の旅! 料理サークル「太陽」編

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