星こゆるぎの笑顔


ひきこもり相談機関「ヒューマン・スタジオ」の丸山康彦さんがひきこもりQOL(生活の質)を追究する取材、第2弾です!

1年ぶりの連載となるので、まずはおさらいとして丸山さんにひきこもりQOLについてお話していただきます。

丸山康彦さん

ヒューマン・スタジオの丸山康彦です。「ひきこもり支援」というと、本人への「就労支援」か「就労を目標にした支援」であることが一般的ですが、少数ながら違う視点で行われている相談業務や本人支援もあります。

そのひとつが「ひきこもり生活の質(ひきこもりQOL)」が高まるような支援です。

「生活の質」を「クオリティ・オブ・ライフ(Quality Of Life)」と呼びますが、ひきこもり相談に携わっている私は、現在の生活すなわち「ひきこもり生活」の質(ひきこもりQOL)が高まっていくと、本人が楽になり元気になっていく、と感じています。

「ひきこもりQOL」が高まるとは「ひきこもり生活が、少しでも楽に、楽しく、安心なものになる」ということであり、それは次の3つが必要だと考えています。

1.生活上の困りごと(歯医者に行けない、髪を切りに行けない、買い物に行けない、など)が解決する
2.やりたくてもできないことができるように、やっていても楽しくないことが楽しめるようになる(ゲームなどの趣味や興味ある勉強など)
3.現在や将来に関わることがわかったりできたりする(行政手続き、家計、など)

そこで私は、どのような活動がそれぞれに該当するかを調査研究しているのですが、そのなかで出会った活動とそれを立ち上げた方々を紹介します。

星こゆるぎの笑顔


丸山さん、ありがとうございます!

今回ご紹介するのは、「ひきこもり女子会」を各地で開催するなど、当事者目線での活動を続けている林恭子さんです。
林さんは2014年にスタートした「ひきこもりUX会議」の立ち上げメンバーで、2015年には「ひきこもり×おしゃれカフェ」を企画しました。このイベントは、主に女性の当事者にメイクやコーディネートを楽しんでもらうことを目的としたもので、ポップでかわいらしくデザインされた非常に画期的なものでした。

女性のニーズに気付いたきっかけや、今後再び開催する可能性について丸山さんがインタビューしました。

おしゃれを楽しむイベントのなかで先駆的なひとつだった「ひきこもり×おしゃれカフェ」

林恭子さん
林恭子さん

(丸山)ひきこもり生活そのものを向上させようという取り組みが各地で見られるようになりました。
そのひとつとして、ヘアスタイルやメイク、服装のコーディネートで、外見から内面の変化を促す試みのイベントが開催されていますが、その先駆的なもののひとつが、林恭子さんたちがはじめた「ひきこもり×おしゃれカフェ」だったのではないかと思います。

(林)「ひきこもり×おしゃれカフェ」は「ひきこもりUX会議」の企画で、2015年7月に開催しました。このときは男女共同参画センター横浜南との共催で、「メイク編」と「コーディネート編」に分けて実施しました。その後、10月にも同じフォーマットで開催しています。

(丸山)この企画はどのようないきさつで始まったのですか?

(林)私自身も不登校やひきこもりを経験してきたのですが、ひきこもり当事者が外出したいと思ったときに、服装の悩みがあるのではないかと考えました。特に女性の場合はメイクの経験がないという方もいるので、当事者向けのおしゃれイベントは需要があるのではないかと思ったのです。

これまでにも、ひきこもり支援の枠組みではメイクの講座はありましたが、たいていプロのメイクアップアーティストからレッスンを受ける形式でした。そこで、私たちはプロにレッスンをお願いするのではなく、「ひきこもりUX会議」のメンバーたちが少しレクチャーしながら一緒に楽しむことをコンセプトとしました。学校の昼休みに友達同士で盛り上がりながらメイクを覚えるイメージです。参加者同士でお互いのメイクを褒め合えるよう、カフェ形式でお茶とお菓子を楽しみながら交流の機会を設けました。

ひきこもりおしゃれカフェの様子



(丸山)「コーディネート編」では男性の参加者もいらっしゃったそうですね。

(林)「コーディネート編」は男性も対象にし、4名が参加しました。参加者全体で見ても「メイク編」「コーディネート編」は毎回定員の20名に到達するほどの人気で、延べ80名が参加しています。

企画段階では、女性を中心としたイベントに当事者が20名も集まるのか不安がありました。しかし、この結果を見て女性ならではのニーズが存在するのだと強く実感しました。

ひきこもりおしゃれカフェの洋服

(丸山)「おしゃれを楽しむ」という発想自体がこれまでの支援にはなかったのです。多くの支援は、「トレーニングでスキルを磨く」ということを重視していますから。
「ひきこもりUX会議」はひきこもりや不登校経験などをもつ方たちが立ち上げましたが、当事者が困っていることにフォーカスしていますよね。それこそが当事者団体の役割だと思います。

工夫すればポップで明るいイベントにできる

丸山康彦さん
丸山康彦さん

(丸山)「ひきこもり×おしゃれカフェ」で工夫したことについて教えてください。

(林)まず、イベントの後も自分でおしゃれを実践できるよう、メイク道具は「100円均一」で、コーディネートはファストファッションで揃えることからはじめました。おしゃれするにはお金がかかると思われがちですが、「100円でもこれだけおしゃれできる」というところを見せたいなと思ったのです。洋服も1000円以下で買えるようなものを集めました。

もうひとつこだわったのは、イベントのトータルなデザインです。「ひきこもりUX会議」の恩田夏絵がデザインを担当して、かわいらしいポップなチラシを作りました。また、カフェで使う紙コップは水玉模様、カップケーキもカラフルにするなど、100円均一の雑貨を使って明るくポップにディスプレイしました。

支援の場ではこのようなデザイン性の追求が後回しにされますが、そういったところを工夫することで当事者の方に期待をもってもらえます。主催側がデザインに少し気を配るだけで、よりよいイベントにできると思います。

ひきこもりおしゃれカフェで使用したメイク道具

(丸山)私は、自身が運営する相談機関「ヒューマン・スタジオ」で「ひきこもりQOL向上支援」の研究を進めていますが、最終目標として各地の支援機関にQOL向上支援をするべきという提言を送りたいと思っています。
林さんのお話も、支援機関にとても訴えるものがあると思います。

イベントの再開には行政などの協力が不可欠

(丸山)「ひきこもり×おしゃれカフェ」を開催したのは4年近く前ですが、今でも「開催してほしい」という声があるそうですね。

(林)はい、今でも各地からたくさんのリクエストをいただいています。声をかけていただければ、いつでもやりたいという気持ちがあります。ただ、開催するためにはメイク道具や洋服などの費用が必要で、現状では参加者からお金をいただかなければなりません。行政や民間支援団体と共催して予算面をクリアすることで、再びイベントを実現させたいと思っています。

私が講演などで地方を回ると、行政の方もいらして話を聞いてくださいます。そこで行政の方に伝えるのは「何が当事者に必要なのかは、当事者が一番わかっている」ということです。可能な限り当事者の方をご紹介するようにしていますが、場作りにしても、相談窓口の設置にしても、どういう場が必要なのか当事者と一緒に考え作ってほしいです。そして、予算を本当に当事者の利益のために使っていただきたい。今年はそのことをさらに強く訴えたいですね。

「自分はここに参加できない」という声も大切にしたい

林恭子さん

(丸山)最近は、ライフスタイリストの方が都内で、美容師の方が千葉県の美容室などで(いずれもひきこもり経験者ですが)、それぞれ独自のイベントを定期開催していて、私も陰ながら応援し実際に参加したこともあります。
ただ、その場がキラキラしていて自分には遠い世界のように思えて敷居が高いと感じる当事者も正直いるのではないかと思います。ひきこもりUX会議もデザインなど洗練されていますよね。それについてはどのように考えていますか。

(林)そのことは、何をするにしても必ず自問しています。「ひきこもり×おしゃれカフェ」や「ひきこもり女子会」が、100%完璧なイベントだとは思っていません。もちろん、私たちとしてはイベントの成功に全力を注いでいますが、いいイベントだと思う人もいれば「自分には無理だ」と思う人もいるでしょう。そうしたさまざまな声があることに思いを馳せつつ、「あえて今はこのイベントをやるんだ」という気持ちで前進しています。

そのために、誰かをネガティブな気持ちにさせてしまうかもしれませんが、何もやらないでいたら何も変わりません。実は、かつての私も同じようなことを考えていました。だから、いろいろな思いを受け止めたうえで、どうやって丁寧にイベントを作っていくのか真剣に考えています。デザインはもちろん、チラシのリード文ひとつとっても、「ひきこもりUX会議」のメンバーで何時間も、または何日も考えることがあります。

(丸山)これこそ当事者活動だからかもしれませんが、葛藤を抱えているのですね。

(林)そうですね。むしろ、葛藤を抱えていなかったら怖いですよね。できるだけ多くの人にイベントのコンセプトが伝わるよう、丁寧にやりたいという気持ちが一番強いです。それはメンバーも同じだと思います。

(丸山)自分に合っていると思う人もいれば、ハードルが高いと感じる人もいる。その中間として「ひきこもり×おしゃれカフェ」のような場があるといいなと常々思っています。

(林)最近は社会も変わってきて、若い人が率先してボランティアなどに参加するようになりましたよね。みんなで助け合う精神が徐々に形になってきているのではないでしょうか。私は、最近つくづく「お互い様」だな、と思っています。いつ立場が逆転するかわからないのだから、他人がピンチのときに自分が手を貸し、また逆もある。そういう関係の中で安心して生きていける世の中になってほしいと思います。

林恭子さんと丸山康彦さん

プロフィール

林恭子さんプロフィール写真

林恭子プロフィール

林恭子(はやし・きょうこ)
一般社団法人ひきこもりUX会議代表理事
高校2年で不登校、20代半ばでひきこもりを経験する。信頼できる精神科医や同じような経験をした仲間達と出会い少しずつ自分を取り戻す。現在はNPO法人に勤務しながらイベント開催や講演などの当事者活動をしている。新ひきこもりについて考える会世話人/ヒッキーネット事務局/NPO法人Node副代表理事
・ひきこもりUX会議 https://uxkaigi.jp/

丸山康彦プロフィール
丸山康彦(まるやま・やすひこ)
「ヒューマン・スタジオ」代表兼相談員
不登校のため高校を7年かけて卒業。大学卒業後、高校講師、ひきこもりを経て1999年4月に青少年支援の学習と活動を開始。2001年10月に個人で同スタジオを設立し、不登校・ひきこもりの相談のほか、メールマガジンの執筆配信、家族会やセミナーの開催など多様な関連業務を企画実施。
「ひきこもり生活を楽に、楽しく、安心なものにする」という「ひきこもり生活の質(ひきこもりQOL)向上」を基本方針のひとつとしている。
著書に『不登校・ひきこもりが終わるとき-体験者が当事者と家族に語る、理解と対応の道しるべ』がある。

・ヒューマン・スタジオ ホームページ https://husta.is-mine.net/

・活動情報が掲載されているヒュースタ日誌 https://blog.goo.ne.jp/husta

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