就労支援を目的として、2012年に開始した地域若者サポートステーション(サポステ)事業。ひき☆スタでも2014年に神奈川県の県央サポステさんを取材しました。 それから約5年が経過する中で、ひきこもりを取り巻く状況は日々変化し、サポステの役割も変わってきています。今回は「神奈川県西部地域若者サポートステーション」(以下県西サポステ)を受託運営しているNPO法人子どもと生活文化協会(以下CLCA)を訪問。ひきこもりを研究されている立正大学准教授の関水徹平さんにも聞き手としてご出席いただき、利用者のニーズの変化やサポートの仕方について、CLCA顧問の和田重宏さん、そして現場に関わっているスタッフの皆さん(生出さん・毛利さん)にお話を伺いました。

サポステの利用者層

(関水)県西サポステを利用される方について伺います。男女比、年齢比はどのようになっていますか?

(県西サポステ毛利統括)県西サポステの状況だけで言えば、以前は圧倒的に男性の方が多かったのですが、現在は女性の人数が男性を上回るようになりました。 年齢層は20~30代が最も多く、今年度は10代の利用者数が少し増えている印象があります。利用者層は地域により異なりますので、神奈川県内の別のサポステではまた違っているかもしれません。

(関水)サポステの利用は登録から概ね6ヶ月以内を目途に就職活動を開始することとされています。実際のところ、6ヶ月以内の間に就職活動を始められるものでしょうか。

サポステのフローを示した図

(毛利)6ヶ月というのは就職活動を開始する目標値になります。実際には、サポステで実施する各種プログラムを経て就職活動を開始するので、登録から6ヶ月という期間を超えてサポステを利用するというケースが多く見られます。また、長くひきこもっていた方にとって、働くということはとても高いハードルですので、継続した取り組みが必要です。 今年度、県西サポステでは8月までに職場体験を経て49名が就職しました。(※週20時間未満のアルバイト等を含む。)

親は子どもに正論を押し付けないでほしい

和田さんの写真

CLCA顧問・和田重宏さん

(関水)サポステへの相談は、ご本人が直接相談に来るケースが多いのでしょうか。

(CLCA和田顧問)そのとおりです。ただ、その前段階として親御さんの相談を受けるケースもあります。そのため、県西サポステでは、平塚市や秦野市で親向けのセミナーを実施しています。

また、CLCAの自主事業として、「家族の会」を定期的に実施し、ご家族向けの居場所を運営しています。

(CLCAスタッフ生出)「家族の会」は毎月小田原市で行っていますが、毎回20~30人いらっしゃいます。ここ1~2年で会場に入り切らないくらい参加者が増えてきたので、直近では厚木市でも開催するようになりました。

(関水)県西サポステが実施する「親向けのセミナー」や、CLCAが実施する「家族の会」では、どのような相談が寄せられていますか。

(和田)多くの親御さんから、「どうしたら子どもが就職して、経済的に自立できるか」という相談を受けます。親御さんの中では、「働くこと = 一人で食べていけること」という図式があるようです。私の考えを言わせていただくと、働くということは、必ずしもお金を稼ぐことと同意ではないと思っています。家族や、近隣の人たちに役に立つような社会貢献をすることこそが、働くことの意義だと考えています。つまり、一概に経済的自立をゴールに置くのではなく、その人が目指す働き方を一緒に探して行くことが大切です。

(関水)子どもへの対応について、親御さんへのアドバイスがありましたら、お願いします。

(和田)特にお父さんに伝えたいことがあります。お子さんに自分の成功体験に基づいた正論を押し付けないでほしいですね。話し合いではなく、説教になってしまいますから。自分を否定されて育ってきた人にとって、それがたまらなく嫌なんです。

急増する福祉的な相談にどう対応するか

(関水)利用者のニーズとサポステで提供できることに、ズレを感じることはありますか。

(毛利)県西サポステでは、統合失調症などの病気や、障害のある方からの相談が増えています。福祉の領域で手厚い就労支援を受けた方がより良いと考えられる場合、別の機関や、A型就労、B型就労といったところを紹介させていただくことがあります。

サポステでの活動を続けながら就労移行支援を受けることも可能です。例えば、就労移行支援を別の機関で受けながら、サポステでも月に1回面談を受ける、といったようにご利用いただけます。

(和田)いま、一つの分野だけで問題を解決しようとするのは難しいでしょう。現に、県西サポステにも福祉とつながった方が良いのではと思われる方が相談にいらっしゃいます。サポステにはキャリアコンサルタントや精神保健福祉士等の資格を持つスタッフがいますが、それだけでなく、医療や生活困窮などほかの分野にコーディネートできるスペシャリストの必要性が増していると思います。

(毛利)利用される方の事情が多様化しており、果たして現状の人員だけでカバーできるのかという課題が見えています。サポステは就労支援を行う場ではありますが、様々な利用者さんがいらっしゃいます。利用者さんからの相談を伺い、サポステのネットワークを駆使してより適切な機関につなぐ必要性があることをひしひしと感じています。

マッチングする就労のあり方を求めて

県西サポステの相談の様子

県西サポステの相談の様子

(関水)ほかの機関との連携というお話がありましたが、そのほかにどのような機関と連携しているでしょうか。

(毛利)近隣のハローワークとは強いパイプを作っており、出張相談を行っています。また、ハローワークの利用者さんをご紹介いただくこともあります。

(和田)これは県央サポステ(神奈川県央地域若者サポートステーション)の話になりますが、多様な人材を採用しようとしている企業を集めた「企業交流会」というものを実施しています。一般的な説明会と違い、企業が「うちの会社はこのような方針でやっています」という説明をして、興味を持った人が企業に相談をするというものです。 2018年3月に初めて開催したのですが、参加した30名余りのうち10名くらいが就職につながりました。 あくまで「交流会」ですから、参加者は話を聞くだけでいい。理解のある企業さんばかりなので、履歴書も必要なく、参加のハードルが非常に低いイベントです。 この企画は、ほかの自治体やハローワークも好意的で、今年度は12月5日、平塚市で実施予定です。 http://kanagawa-nishi-supposta.com/20191205kigyo/

「一緒にできることは何か」を考える場でありたい

(関水)最後の質問です。どのような方に、サポステを利用してもらいたいと思いますか。

(毛利)県西サポステは、「一緒にできることは何か」を考える場でありたいと思っています。「何かしたい」「動いてみたい」という思いがある方は、まず一度来てみてほしいですね。

(和田)はじめの一歩としてサポステを利用してくれたら、道が見えてくるんじゃないかと思います。はじめはどうしても、「サポステに行くなら人と話せなきゃダメ」とか、条件が揃ってないとダメだと考えてしまいます。サポステでは専門の相談員が相談に乗れるので、気軽に来てください。

(関水)皆さん、本日はありがとうございました。

取材参加者の集合写真

(左から)生出さん、和田さん、関水さん、毛利さん

県西部地域若者サポートステーション http://kanagawa-nishi-supposta.com/

住所 神奈川県小田原市城山1-6-32 Sビル2F

お問い合わせ 0465-32-4115

NPO法人CLCA 和田重宏顧問のインタビュー記事はこちら https://hkst.gr.jp/interview/3479/

立正大学准教授 関水徹平さんのインタビュー記事はこちら https://hkst.gr.jp/interview/14625/

「訊いてみた。」の最新記事