近年、ひきこもる女性たちの居場所として「ひきこもり女子会」が注目されています。女性ならではの思いを安心して話せる取り組みは全国に広がり、当事者が自ら女子会を立ち上げる動きも見られます。
神奈川県川崎市では、男女共同参画センター(すくらむ21)が主催する形で、2018年から「ひきこもり女子会 in 川崎(以下、川崎女子会)」を開催。2019年度には計6回で延べ96名の女性が参加しています。
今年度は新型コロナウイルス感染症の影響で開催できていなかったものの、9月より制限を設けて再開することに。すくらむ21がひきこもり女子会を始めるに至った経緯や、具体的な運営方法などについてお話を伺いました。


すくらむ21とは?

すくらむ21の外観

川崎市男女共同参画センター(愛称:すくらむ21)は、川崎市内で唯一の男女平等施策推進の拠点施設。男女平等参画の推進を柱に、生き方や暮らしに関する学習機能の提供、生活の悩みに関する相談のほか、調査・研究、市民活動団体との協働事業・イベントなどを行っている。1年間に開催した講座数は、183講座 (2019年度)。


館内は850名ほど収容できるホールのほか、研修室や会議室、書籍や行政資料を読める情報提供室、保育室など、施設が充実。


※新型コロナウイルス感染症拡大防止のため、館内各部屋の定員を、当面の間一部変更しています。詳しくはお問い合わせください。


2020年には節目となる開館20周年を迎え「すくらむ21まつり」の開催に合わせて2021年2月6日(土)午後に記念イベントを予定している。


ひきこもり女子会 in 川崎とは?

・概要
ひきこもり状態にある方、または、経験者、生きづらさを感じている女性当事者同士が、悩みや苦労を気兼ねなく話せる交流の機会を通じて、悩みを抱えているのが自分だけではないことを知り、自身の生き方を考えるための一助となることを目的に実施している。


・対象
女性(性自認が女性の方も含む)
当事者(親や支援者は参加できない)
年齢制限はなし。これまで10~60代の方が幅広く参加。


・開催ペース
2ヵ月に1度


・参加者数
これまで各回8名~25名が参加


女性当事者の提案で始まった川崎女子会

-2018年に川崎女子会がスタートしましたが、それまでもひきこもりに関する取り組みは行っていましたか?
すくらむ21ではいくつかの自助グループが登録しています。その中には、不登校の子供をもつ親の会などはありますが、ひきこもり当事者に特化した取り組みはありませんでした。

2018年、川崎市内にお住まいの「さきさん」という女性からお電話をいただきました。
彼女は10代のときから生きづらさを抱え、これまでもひきこもりを数回経験。「一般社団法人 ひきこもりUX会議」の主催するひきこもり女子会などに参加し、ご自身が「ひきこもり主婦」であることに気付いたそうです。そのときに出会った女性たちとの共感を通して回復していったのですが、そんな彼女が「女性が安心して集える場所を地元の川崎にも作りたい」と提案してくれました。
女性の当事者は「男性がいると緊張してしまう」「女性特有のライフイベントによる不安や悩みがある」など、男性のひきこもり当事者とはまた違った思いをおもちです。さきさんのお話を伺って、女性同士であれば自分の気持ちを話しやすいだけでなく、共感も得られるのではないかと思いました。


-2018年6月にはじめて川崎女子会を開くことになりました。
主催はすくらむ21ですが、ご提案いただいたさきさんにも協力者として運営に関わっていただきました。
さきさんは開催を伝えるチラシをSNSにアップしたり、以前にひきこもり女子会に参加されたひきこもりUX会議にも告知を依頼したりと、広報に尽力。初回は15名の方にご参加いただきました。県外などの遠方からいらっしゃった方もいて、「こういう場が多くの人に求められているんだな」という印象をもちました。


-一度参加された方が、再びいらっしゃるというケースもあるのでしょうか。
リピートでいらっしゃるケースもたくさんあります。毎回ではなくても、4ヵ月に1度とか、ご自身に合ったペースでいらっしゃいます。
2019年度は毎回10名以上の方にご参加いただいていますが、リピートでいらっしゃる方が半分、新規の方が半分と、とても良いバランスで実施できています。


当事者会で大切なのは「ルール」と「当日の流れ」

-川崎女子会を運営していくうえで、特に気を付けていることや工夫していることはありますか?
川崎女子会ではゴールを設定しないようにしています。何かに向かってがんばるという場ではなく、当事者の方が自分の気持ちを話せる場になればと思っています。当事者の方が安心して話せる環境作りのため、親や支援者の方の参加はお断りしています。

また、小さいお子さまのいる参加者のため、2019年度からは一時保育が利用できるようになりました。1歳未満のお子さまは保育室に預けられないため、その場合は同席してもらっています。家の中でお子さまとずっといることで疲れているという方もいるので、参加するときは保育を活用していただきたいと思っています。


保育室の内部
すくらむ21の保育室


-開催当日、親や支援者の方がいらっしゃったことはありますか。
過去にありました。そのため、1階の受付の手前に看板を出し「親や支援者の方はご参加いただけません」という掲示を出しています。


-複数の方が語り合う場では、ルールの設定が大切になると思います。川崎女子会では、どのようにルールを決めていったのでしょうか。
まず、川崎女子会を提案してくれたさきさんの「こういう居場所にしたい」という思いがベースにあります。また、すくらむ21も自助グループの運営を以前から行っていたので「ルールを作ることで参加者がお互いを傷つけないようにする」ことが大切だという理解や、ノウハウの蓄積がありました。ルールは初年度からこれまで、ずっと変わらずに運営しています。

少しずつ調整しているのは「当日の流れ」です。
「運営に協力したい」という当事者の方が少しずつ増えてきて、川崎女子会当日の午前中に、運営協力者ミーティングを実施するようになりました。そこで、前回の様子を振り返ったり、今回気を付ける点を話したりしながら改善を図っています。


ルールが書かれたホワイトボード
参加者にわかりやすいよう、ルールを提示・配布して説明している。


-現在、当日の流れはどのようになっているのでしょうか。
現在は、このようになっています。


・当日の流れ

受付:
ストラップをかけたスタッフが受付します。匿名参加も可能。当日呼ばれたい名前をシールに書いて貼っていただきます。


進行:
<前半>
①施設案内、開催経緯の説明など(5分)
②ルールの説明(5分)
③まずは運営協力者(当事者)1名が自分について話をする。
④参加者ひとりずつ順番に参加の経緯や、ご自身について話をしてもらう。
※話をしたくない方は、話を聞くだけでも構いません。区切られた非交流スペースで休むこともできます。(③~④で40分ほど)
⑤後半のグループトークで語りたいテーマを出し合う
⑥休憩(10分)


<後半>
⑦グループトーク(50分)
(3~4島にグループを分ける。自分の好きなテーマの場所へ座る。)
⑧アンケート協力のお願い、閉会(10分)
⑨閉会後30分は自由利用


片付けなど:
⑩主催者と運営協力者とで片付け
⑪主催者がアンケート回収


⑦では、毎回違うテーマを設定しています。過去には、「はじめまして」「家族」「仕事」「メンタルヘルス」「ひきこもり主婦」などがありました。
⑨について、はじめはこうした時間を設けていなかったのですが、名残惜しいと感じる方もいたので、閉会後の自由時間を作りました。時間ギリギリまで残る方もたくさんいらっしゃいます。


誰かに悩みを「話す」ことは、ひとりで抱えている気持ちを「離す」こと

-運営するうえで工夫していることについて教えてください。
これまで、当事者の方の協力も得ながら2年近く運営をしてきたことで、進行方法が定型化したことでしょうか。
限られた時間ですし、参加者の方が安心できるよう滞りなく進めることが大切です。また、参加者が話しやすいよう部屋のレイアウトも工夫し、形が決まってきました。これまでのところ、参加者同士のトラブルもなく、安定した運営ができています。

それから、お話に疲れたら休むことができる「非交流スペース」も設けています。ホワイトボードで仕切ったスペースで、無理に話さなくても輪に加わって過ごすことが可能です。

また、これはさきさんからの提案だったのですが、主催者であるすくらむ21のスタッフも参加することがあります。自分自身もひとりの女性として、職場や家族には話せないような話をさせていただくことがあります。参加者の立場に立つことができるのと同時に、自分自身にとっても胸の内を話せる良い経験となっています。


・参加者の感想(抜粋)

自分と同じような悩みを抱えている方にお会いできて「ひとりじゃないんだ」という安心感が得られました。(40代)
とても温かい雰囲気で迎えてくれる感じが心地よかったです。(30代)
2ヵ月に一度の女子会を楽しみにしています。ここは気楽に話ができるので、少しずつ緊張しなくても平気になってきました。(20代)
時間内出入り自由で、女性限定なので助かっています。(50代)


-将来、川崎女子会をどのようにしていきたいですか?
対話を通して自分の感情を出して良い居場所として、そして、自分を大切にして良い居場所として、引き続きご利用していただけたらと思います。

また、現在はすくらむ21の主催となっていますが、協力者や当事者の方たちで運営ができるようになると望ましいと考えています。すくらむ21では、自助グループの支援を行っています。将来的には、当事者同士が自主的に支え合う自助グループとして活動を継続できるようになれば良いと思います。どちらにしても協力者の方が毎回参加できるわけではないので、誰かがいないと開催できない状況がないほうが良いと思います。


-女性の当事者が、自らひきこもり女子会を立ち上げるケースも見られるようになりました。「自分でもひきこもり女子会を開きたい」と考えている当事者に、アドバイスなどございましたらお願いします。
「自分でも始めてみたい」という気持ちがあっても、第一歩を踏み出すのは大変勇気がいることだと思います。
もし、これから始めたいという気持ちがございましたら、すくらむ21に足を運んでいただいて、川崎女子会に参加しながら運営の方向などを体感してみてはいかがでしょうか。川崎女子会への参加と平行して、ご自身で当事者会を始められるのも良いかもしれません。実際、川崎女子会にも、複数のひきこもり女子会に参加されている方がいらっしゃいます。


-川崎女子会への参加を考えている女性の当事者へメッセージがありましたら、お願いします。
人の前で話すのは、私でも緊張してしまいます。しかし、悩みや苦労を誰かに「話す」ことで、ひとりで抱えている気持ちを「離す」ことができます。ほかの参加者のお話を聞くだけでも、共感することがあるかもしれません。まずは、発声練習くらいのつもりで、気軽にお越しください。



<ひきこもり女子会 in 川崎> 2020年9月28日 13時30分~開催
https://hkst.gr.jp/events/19232/

<すくらむ21のウェブサイトはこちら>
https://www.scrum21.or.jp/

<ひきこもり女子会 in 川崎 Twitter>
https://twitter.com/hikijo_kwsk


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