神奈川県平塚市でひきこもりや不登校に対する自立支援活動を行う、NPO法人「ぜんしん」。理事長の柳川涼司さんは、シューティング・ゲームで日本一のスコアを出した経験と、自身のひきこもり体験をベースに支援活動に取り組んでいます。
インタビュー第2回目は、NPO法人「ぜんしん」の方針や活動の様子についてお話を伺いました。
◆柳川流「ゲーム上達的思想法」とは?
――前回のインタビューで、テレビ出演時の「ゲーム攻略理論」の発表が、「ぜんしん」を設立するきっかけとなったとお話しでしたが、この理論をもとに「ぜんしん」で実践している「ゲーム上達的思想法」ついて教えて下さい。
はい。「ゲーム上達的思想法」とは簡単に説明すると、ゲームを攻略するのと同じように、ひきこもり状態をクリアしていこうという理論です。
昔のぼくもそうですが、行き詰まってひきこもってしまう子の中には、こだわりが強く、考え方を切り替えるのが苦手な子が多い。そういう子は1つ失敗すると、なかなか前に進めなくなってしまいます。
「ゲーム上達的思想法」では、まず自分の目標達成までのプロセスを、ゲームのステージのように1つひとつ細かく設定していき、そのステージをクリアするための選択肢を用意します。この時、「1つの選択肢が失敗すると、ゲームオーバー」とはならないように、失敗の次には別の選択肢を用意します。こうすると、ひとつの選択肢が「つまずき」となって前に進めない、ということが無くなります。たとえ目標までたどる順序が変わってしまったとしても、最終的には設定した目標を達成(クリア)することが出来るのです。
たとえば、漢字の書き取りなんか、よくみんな教材の順番通りに覚えていこうとするでしょう。けれどもみんなと同じやり方ではなく、各々の覚えやすい方から取り組んでいくことによって、その子にとって効率よく目標にたどりつけることもある。学校などとは違ったプロセスで、目標を達成することができるわけです。
◆ゲーム依存をどう考え、どうアプローチするのか
――ひきこもりの子の中には、ゲームやパソコンに熱中していく子が多いという声も聞かれます。かたや、ぜんしんではその支援を「ゲーム上達的思想法」で実践しているわけですが、この辺りについてどうお考えでしょうか。
ぼくのように、元々ゲームが大好きでひきこもってしまった例もありますが、おそらくそれは珍しいと思います。最初からゲームやパソコンが大好きでというよりは、「時間つぶしにちょうどいいから」と、ひきこもっていくうちにのめり込んでいく子が多いと感じています。
ただ、パソコンゲームにハマるうちにウェブ上での仲間が出来て、更に熱を上げてしまい、ゲームの世界から抜けられなくなる方も存在しているようですね。
――ぜんしんでは、ゲーム・パソコン依存におちいってしまった当事者に、どうアプローチしますか?
ひきこもりの子に対して、急にゲーム機やパソコンを取り上げたりする親御さんがいますが、取り上げ行為はよくないと思っています。叱るのではなく、一緒に関心を持ってみることの方がいいでしょう。例えば、ゲームをやっている時に、「それおもしろいの?」「どんなゲームなの?」と聞いてみたり、ゲームの本を買ってあげたり。相談を寄せてくれる家族には、こうしたアドバイスをさせてもらっています。
本人だって心の奥に罪悪感は持っています。だから、無理矢理行動させるのではなく、自主的に行動したいと思えるような環境を整えることが、状態を改善させる第一歩だと考えているのです。
とはいえ、周囲はすべてをただ認めてあげるのではなく、コンディションのいい時に、「これからのこと」について少し質問してみるのもいいですね。そうやって気持ちを確認しながら、パソコンやゲームに使う時間のバランスを変えていくことを大切に、当事者とその家族を支援しています。
◆「ぜんしん」はこんなトコ
――柳川さんのお話を読んで、「ぜんしんに行ってみたい!」と思った方のために、活動状況など教えて下さい!
「ぜんしん」のスタッフは6名で、現在は毎月第4土曜に、居場所「なかまの広場」で依頼者からの相談に乗ったり、当事者と一緒に話したりしています(「なかまの広場」の所在地:神奈川県平塚市宝町9-9)。「なかまの広場」に来てもらうだけでなく、要望によってはこちらから依頼者の自宅に出向き、当事者と語ることもあります。
また、毎月第2金曜日には、ひらつか市民活動センター(平塚市八重咲町3-3 )で、当事者向けのプチ・パソコン講座を始めました。
――「ぜんしん」ならではの特徴などはありますか?
「ぜんしん」の特徴は、ぼく以外のスタッフにも、元不登校・ひきこもりの当事者がいることです。10代から70代までと、利用者も含め幅広い年齢のさまざまな方が、居場所に来ています。このためひきこもりの情報から少し離れた部分のアドバイスもできるのが、ウリのひとつかもしれません。
それから「ぜんしん」では親御さんとお子さんが一緒に相談に来ることも多いのですが、他の支援団体の方からは、「それは珍しいことだよ」と言われていますね。
施設自体が狭いので、当事者も保護者も一緒に、そしてゲームも相談も同じ空間で、という状況になっていることが関係しているのかもしれません。最初の内は、当事者の方はいづらいということもあるかもしれませんが、自然と話す雰囲気が出来てきます。もちろんお願いがある場合は個別に対応しますが、普段はテーブルを囲みみんなで意見交換をしていますよ。
――「ぜんしん」を利用されている方の反応はいかがですか?
ゲームやパソコン依存にある当事者を持つ親御さんからの相談が半数以上あり、ゲームと当事者との関わり方を含めた助言を受け、「参考になりました!」というご意見など頂いています。
この春には高校を中退した男性が、居場所に来てお菓子を食べたり、ゲームをしたりして元気になった後、他団体との連携支援により、復学を果たしたケースも生まれました。
――今後の目標を教えて下さい。
ぼくは厚労省と県の委託事業による就労支援のパソコン講師もしているのですが、その就労支援パソコン講座に来る人の中にはひきこもりの子も多いです。「ぜんしん」でもパソコン講座を始めることで、そうした子に対してもサポートできればと思っています。主な活動は、現在月2回程度ですが、できれば週に5回は居場所(相談室)を開けることが出来るようにしたいですね。また、ゲームを活かした支援ということで、ゲーム会社の方とも何か協力して新しいことができれば面白いと考えています。
――柳川さん、2回に渡るインタビューありがとうございました。
NPO法人ぜんしんパンフレット(相談会・PC講座)
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NPO法人ぜんしん
〒254-0026 平塚市中堂2-22
電話 0463-23-1177
電子メール ryoz@lifestyle-cps.sakura.ne.jp
NPO法人ぜんしん運営 居場所「なかまの広場」
〒254-0034 神奈川県平塚市宝町9-9
(JR東海道線「平塚」駅、東口改札より徒歩5分)
▽神奈川県ホームページ内 NPO法人ぜんしんページ
http://www.pref.kanagawa.jp/cnt/f70226/p448041.html