不登校やひきこもりという状態になると、自宅に閉じこもっているため人間関係が家族だけにかぎられます。この状態が理解できない親は、本人の言動に戸惑い、本人への見方や接し方がわからず苦悩することになります。
そうした共通の悩みを分かち合い、わが子への理解と対応に役立つ体験や意見、情報を交換することなどを目的に、不登校状態の子を持つ親が自発的に結成した、地域の自助グループとしての親の会が各地で開かれています。
神奈川県内では、複数の「当事者の家族による地域の自助グループとしての親の会(父親の会を含む)」や「市区町村や民間支援機関による支援方法としての家族会・家族セミナーなど」が活動しています。
支援機関が開催している家族会や保健所が開催している家族教室は、前述の「地域の自助グループ」とは違い「グループカウンセリングや講座に近い家族の学習の場」として開催されていることが多いようです。
最近では親だけでなく、祖父母やきょうだいなども気軽に参加できるよう「家族会」と名乗る会も増えています。
また「KHJ全国ひきこもり家族会連合会」という全国39か所に支部があるひきこもり家族会の全国ネットワークも存在し、神奈川県にも支部があります。
今回はこうした家族会の中から、藤沢市の「ヒューマン・スタジオ」が主催する「しゃべるの会」を取材しました。
家族の対応の変化がひきこもる心を楽にする
子どもの不登校状態とおとなのひきこもり状態への相談援助を目的とした研究所「ヒューマン・スタジオ」では、2010年から家族会「しゃべるの会」を開催しています。「同じ立場のご家族どうしが“しゃべる”ことで 心理と対応のあり方について“心のシャベル”で掘り下げる」をキャッチフレーズに名付けられました。
「不登校やひきこもりの状態にある人の多くは、動けないでいる自分への負い目やエネルギーの不足に苦しんで自宅に閉じこもっています。そのため、唯一の人間関係であるご家族の対応はたいへん重要です。すなわち、ご家族が適切な見方や接し方ができるようになれば、本人は家に居ながらにして楽になり、エネルギーを回復していくことができるわけです。」とヒューマン・スタジオ代表の丸山康彦さん。
家族が肩の荷を降ろしながら深い理解へと進むことができるよう、同スタジオの家族支援業務として3か月に1回、横浜市内と湘南地域で交互に開催しています。(※1)
「しゃべるの会」の最初の5年間は、不登校状態の子を持つ家族とひきこもり状態の成人の家族との合同開催でした。第1回では双方の立場の違いによるすれ違いが生じる場面もありましたが、第2回以降は逆に子の年齢の違いによる発見があるなど、よいほうに作用することが多かったそうです。
会が知られるにつれて参加者が増加し、4年目以降はほとんど毎回10人を超え少人数による充実した話し合いが難しくなったため、6年目の2015年度からは開催回数を倍にして「不登校編」と「ひきこもり編」に分けて開催し、少人数でじっくり話し合える雰囲気に戻って好評を得ています。
「地域の自助グループとしての親の会/家族会」と大きく違う特徴のひとつとして、毎回参加者の顔ぶれが違うことが挙げられます。常連参加者の方は1、2名で、あとは参加したりしなかったりの方や初参加の方です。また夫婦での参加や父親ひとりでの参加もよくあり、初めての方でも参加しやすい雰囲気があるようです。
※1 湘南地域では2016年度から平塚市で活動している親の会(不登校編は「親の会パレット(不登校を考える会)」、ひきこもり編は「すばる」)と共催。
他家族から学び、主催者からも学ぶ
ここで実際に参加してみるとどういう感じなのか、「しゃべるの会」の開催の模様をご紹介します。
会を進行する丸山さんは、高校時代に不登校を、大学卒業後にひきこもりを経験しています。
会場は机がロの字型に並んだ公共施設の会議室。参加者は受付でテキストと関連資料、名札用の紙を渡されます。
名札用の紙には、自分が呼ばれたい名前かニックネームを記入して三つ折りにし、自席に置きます(丸山さんは「まる」と書いています)。テキストは、丸山さんが2002年10月から執筆・配信しているメールマガジン「ごかいの部屋~不登校・ひきこもりから社会へ~」の最新号です。
会が始まると、テキストを丸山さんが読み上げて説明。続いて参加者が参加の動機や、テキストの感想、子どもの状況などの自己紹介をします。その後は休憩を挟んで最後までフリートーク。テキストの内容にとらわれずどんなことでも自由に発言できます。
同じ悩みを持つご家族同士ということもあり、休憩時間に雑談が始まることが多く、休憩後はスムーズに話し合いを始められる回がほとんど。自己紹介での話の中から共通の悩みが出ていたらそれを取り上げます。初めての方や深刻な悩みの方がいたら、その話を詳しく聞いていきます。そのようにしてテーマを取り上げて意見を言ったり参加者同士の話し合いを促したりしながら、必要に応じてホワイトボードに図示するなどして解説を挟むのが丸山さんのスタイルです。
自己紹介で戸惑いの渦中にあって辛い心の内を吐露される方がいた時には、休憩時間を延期してまずはその方の話をさらに聞いたうえで、共通する体験をした方と対話してもらったこともあるそうです。
「安心できる力を」「時間が足りない」
このような自助グループと学習会を兼ねた内容に触発され、毎回参加者のほぼ全員がアンケートを熱心に書いて提出してくれるとのこと。そうした感想の中から、許可を得て同スタジオの機関紙に掲載されたものの一部を紹介します。
*勇気がもらえる。生きた教材、現実に即した話。理論どおりの勉強会でない(父)
*信頼できる主催者と、立場はそれぞれ違ってもひきこもりという苦しみをかかえる親の中で、安心できる力を与えられた会でした(母)
*少し疑問に思ったことや自分の考えも率直に言えて、又それについての深い解説もして戴け良かったです(母)
*心の中にすうっと入ってくるテキストでした(母)
*15年以上ひきこもっている方から割合に最近の方まで、時系列(?)のように本人や親の考え方の変化も含めて考えられるようになりました(母)
*初めての参加で、皆さんの体験談が本当に力になりました。いっしょに泣いてくださって…あたたかい方ばかりでうれしかったです(母)
*いつも感じるが、時間が足りないなあと(父)
*親たちがただはなすのではなく、先生のアドバイスがあるのがよかった(母)
感想からも参加者同士の語り合いが力になることや、疑問や悩みを解決する糸口を見出す勉強会としての役割が機能していることがうかがえます。
丸山さんは「本人だけでなく家族にも必要な、誰もが否定されない時間と空間。それを提供しながら、本人への理解を深めるための学び合いになるよう心がけています。ただ、参加して学んでもしばらくするとその感覚が薄れてしまう、という親御さんが少なくありません。確かに、一度学んだだけのことを実際の対応に活かすのは難しいでしょう。そのためにもこうした親の会や家族会に、繰り返し参加していただくことが大切だと思います。」と話しています。
2016年度の「しゃべるの会」は、4月と7月と1月、「不登校編」を第2土曜日に、「ひきこもり編」を第4土曜日に、それぞれ開催予定です。定員10名、事前申込制(当日参加希望の場合は要問合せ)、テキスト代500円。詳細・申込はヒューマン・スタジオへ。
ヒューマン・スタジオ(ひき☆スタ内紹介ページ)
ヒュースタ日誌 http://blog.goo.ne.jp/husta