2016年7月3日(日)、神奈川県立青少年センター青少年サポートプラザにて、精神科医/作曲家の泉谷閑示先生による講演会「『よかれ』という親ごころ~ひきこもりから親子関係を考える~」(主催:ヒッキーネット 共催:神奈川県立青少年センター)が行われました。
JR桜木町駅から、紅葉坂を登って来ました…見てのとおり、この日はとても暑かったんです!
泉谷先生は、今年4月に開催された「ひきこもりUXフェス」でもトークイベントに出演。今回は当事者の親御さん向けの講演ということで、会場に集まった出席者100人超のうち、その多くが親御さんのように見受けられました。
講演会というと、事前にレジュメを出席者に渡して、その内容について講演者が話していく、というスタイルが一般的。しかし、泉谷先生はほとんどの時間を出席者からの質疑応答に割くスタイル。即興的な対話によって、親御さんたちの悩みに次々に答えていきました。
質疑応答の前の講演で、親子関係について「親子間の『わかったつもり』は、むしろ行き違いの原因になっていることが多い。まずは『家族なんだから仲良くやっていけるはずだ』という間違った幻想を捨てるべき」と話した泉谷先生。そのうえで、親の「よかれ」という思いについて「(自分の子どもが)他者であることがわかったとき、何がわが子のためなのかということが、実はそう簡単にはわからないものだと気付くはず」と展開します。
親子といえども、個々の人間の心が物事をどのように感じるかは未知の世界。精神科医の仕事でもクライアントに「教えてもらう」というスタンスを取る泉谷先生は、そうした人間の複雑な心の在り方に立脚し、ひきこもりの子と親の関係を導き出します。
質疑応答では、ひきこもりの子を持つ母親からの「こちらが対話しようと思って臨んでも子どもが拒絶してしまう。どういうきっかけをつくればいいか」という質問に対し、泉谷先生は「『頭』で考えるから、マニュアル的な対処法を求めるようになってしまう」と答えます。「お母さんの『心』で決めていい。何を言おうかと予め『頭』で準備しようとするから、子どもの思いとズレてしまうのです。むしろ、口に任せるくらいのつもりで。『心=身体』は、その瞬間に最もふさわしいことをやってくれるものなのです」と、即興性を大切にする対話の重要性を強調されました。
質疑応答では、ユーモアにあふれ時にブラックな回答が次々に先生の口から飛び出して、会場からは何度も笑いが起きていました。しかし、それは問題の本質を突いた鋭い言葉の裏返しにも思えます。時間いっぱいになっても、まだまだ質問したいという出席者が後を絶ちませんでした。
「親の役割を生きる前に、ひとりの人間を生きてほしい」 ――泉谷閑示先生へのインタビュー
講演の後、ひき☆スタ編集部が泉谷先生にインタビューを敢行!講演よりも突っ込んだ(?)質問にお答えいただきました。どうぞご覧ください!
――質疑応答に多くの時間を割いていましたが、その意図についてお聞かせください。
泉谷:質問者が何を知りたいのか、を聞いて即興的に答える方が、生きたパフォーマンスになります。参加者の個人的な質問というのは、実は、他の方たちにとっても切実な問題であることが多いので、私は以前からそういうやり方をしています。
私からも話したいことは山のようにあります。だけれども、限られた時間の中ですべてを話すことはできません。どういうことをみんなが求めてきているのか。それこそ「よかれ」と思って話しても、参加者のニーズと違うかもしれません。だから、最初から質疑応答にしているのです。
――当事者からは漠然とした質問が多かったのですが、親は具体的な質問が多いと感じました。
泉谷:当事者の方から抽象的な質問や意見が出てくるのは、彼らが具体的なことで困っているわけではないからなんです。
「なぜ生きなきゃいけない」「なぜ働かなきゃいけない」という、哲学的な、根本の疑問で行き詰まっているからなんです。
だけど親御さんは、具体的な問い、対処のノウハウを聞こうとする。そこでも、もう両者は食い違っているわけです。
――「ひき☆スタ」に寄せられる当事者からの投稿には、年齢や就労について、それに家にいることへのプレッシャーと焦りが感じられます。そのため、哲学的な疑問を考え抜く余裕がなく、辛い思いをしている方が多いと感じます。
泉谷:特別な環境を用意しなくても、大切な問いというものは、本当は、考えようと思えば考えられるものではないかと思います。もちろん、プレッシャーがない方が考えやすいだろうけれど、しかし、プレッシャーのある中でも考えなければならない。当事者の方には、そのように腹をくくってもらうことも大事でしょう。
環境がよくなったら動こうと思っても、なかなかそういう日は来ない。私はよく、当事者の方に「親が変わることを待つな。あなたが先に行きなさい」とお伝えしています。
――講演の中で、「(当事者は)自分の思っていることに向き合うと良い」という話がありました。親子関係に沿って、具体的にお話いただけるでしょうか。
泉谷:ひきこもっている人は、自分の中で対立や分裂が起きているんです。自分の「頭」が自分の親のような価値観になっている一方で、自分の「心」がそれを「嫌だ」といっている。自分の中がいわば内戦状態になっているんです。自分の中が統一できていない状態では、とても怖くて外には出ていけないでしょう。
多くの当事者の方たちは、どうしても家族や他人との「関係」に縛られすぎています。「家族関係」をどうにかしようと奮闘するよりも、まずは自分が「個」であることを確保すること。自分の「個」さえ整えることができれば、「家族関係」が最悪だとしても、何とか事態を打開していけるものです。
――ひきこもった子の親が、子どもへの心配で頭がいっぱいになって、自分の人生を目いっぱいに生きようとしないのはなぜでしょうか?
泉谷:ひきこもりの子を持つ親御さんは、きっとその親も「自分の人生を生きていない人」だったのではないか。周りが「自分の人生を生きていない人」ばかりだから、自分もそういうものだと思い込んでいるのでしょう。
「自分を生きている人間」がこの日本では少なすぎるのです。だから、親になったら子どもに自分の思いを託してしまうようになる。これは、日本人の悪い癖だと思います。ですから、親という役割を生きる前に、まずはひとりの人間として生きて欲しい。それができれば、きっと色んなことがうまく回り始めるだろうと思います。
泉谷閑示氏プロフィール
東北大学医学部卒業。
精神療法を専門とする泉谷クリニック(東京/広尾)院長。
診療の傍ら、大学・企業・地方自治体・カルチャーセンター等で講演を行う。
TV、ラジオではNHKを中心にニュース番組、教養番組に出演。
舞台演出や作曲家としての活動も行う。
著書は「『普通』がいいという病」「反教育論~猿の思考から超猿の思考へ~」(講談社現代新書)、「『私』を生きるための言葉―日本語と個人主義―」(研究社)など多数。
<ホームページ> http://izumiya-seminar.com/
<Facebook> https://www.facebook.com/izumiya.seminar.jp/
主催団体
<ヒッキーネット> http://hikihikinet.wix.com/hikihikinet