男性は何をどう悩むのか 男性専用相談窓口から見る心理と支援
濱田智崇・「男」悩みのホットライン[編]
2018年
ミネルヴァ書房
266ページ


父親らが利用する男性専用の相談窓口とは

本書は、1995年に大阪で誕生した日本で初めての男性相談「『男』悩みのホットライン」の相談事例から、男性の心理や支援のあり方について考察しています。

このホットラインは電話による匿名の相談を受け付けており、性に関することや、DV(ドメスティック・バイオレンス)などの暴力に関すること、夫婦間の問題、といった悩みが寄せられています。相談員はカウンセリングの手法に従ってこうした相談に耳を傾け、相談者と粘り強くコミュニケーションを図っていきます。

男性におけるコミュニケーションとはそもそもどういったものなのか。それを客観的に捉えることで、親子間・夫婦間のやりとりに生かせるポイントがあるのではないかと考え、本書を「親☆スタ」で取り上げました。子ども(男性)との対話はもちろんですが、父親自身の話し方、考え方を振り返るのにも適しています。

また、本書ではひきこもりの子どもを持つ親の相談事例も紹介しています。


「男性のあるべき姿」を押し付ける社会

男性中心で動いている社会では、女性はあらゆる「外圧」により差別を受けているといえます。一方で男性は「男性は立場が強いはずだ」という価値観に縛られ、「男は強くなければならない」「男は家族を養わなければならない」といった「内発的」なしがらみに囚われているため男性が職場や家庭で抱える悩み・ストレスなどが「男性特有の問題である」と認識されづらい状況です。

男性の負担が顕在化されてきたのは、バブル崩壊後です。長時間労働の慢性化によって男性と家庭が切り離され、男性が「仕事の顔」しか持てなくなりました。本書ではそれが顕著に現れた事例を紹介しています。定年後の男性を集めたワークショップの自己紹介で「◯◯会社の営業部長をしていた」「◯◯銀行に勤めていた」と、元の職業が何であったかを話し始めたそうです。仕事を離れたあとも、「いま」の自分を表現することができない生き方を強いられてきた結果だといえます。

こうした長時間労働は過労死などの問題を生み出しました。男性の自殺率が90年代後半から急増するなど、多くの男性が生き辛さを抱えています。実際、このホットラインでは仕事についての相談が7.4%と、思ったより少ない割合です。仕事の悩みは他人に相談することではなく、自分で解決するべきだという観念が根強いのかもしれません。

こうした社会問題は、ひきこもり当事者にも影を落としているといえます。社会から強いられる「男性の理想像」と「本来の自分のあり方」で揺れ動く葛藤は、男性ひきこもり当事者が抱える大きな悩みでもあります。


「用件、結論」に終始しがちな男性のコミュニケーション

男性のコミュニケーションは「用件のみ、結論のみ」になりがちであると書かれています。これは仕事の効率化によって身についたものなのかもしれませんが、一方で相手の気持ちに配慮した共感型のコミュニケーションを苦手とする傾向が見られます。この背景には長時間労働が影響しているほか、男性は「弱みを見せてはいけない」という理想像に縛られているためなのではないかと考えられています。

男性のコミュニケーションは自分の意見や用事の伝達が中心ですが、コミュニケーションの本来の意味は「他者と共有する」ことです。相手の言葉にまずは耳を傾け、その内容をいったん自分の中で受け止めて、それを頭ごなしに否定せず共感する言葉を伝える。コミュニケーションの3つのポイントとして紹介される「傾聴」「受容」「共感」は、実際に相談員が研修で学んでいることの大きな柱となっています。

ひきこもりのことに話を戻しますと、親御さんの中にはこの3つのポイントを承知し、実践していらっしゃる方もいます。しかし、「傾聴」「受容」「共感」によって必ずしも効果が生まれるとは限りません。そうしたコミュニケーションを徹底していても、状況がなかなか変わらないケースもあります。 それでも、相手に耳を傾ける姿勢を知っておくだけで、対話の幅が広がります。また、仕事先やプライベートなど、日常のコミュニケーションにも活用できる場面がたくさんあります。


「男性」の定義をめぐって

男性をキーワードにさまざまな視点から論じている本書ですが、このホットラインの名前が『男』と二重カッコにしているのには意味があります。ひとつは男性向けの相談であること、そしてもうひとつは「男性」とは誰のことなのか、意識的にならないといけないという思いが表れているそうです。

近年、セクシャルマイノリティの存在が認知されるようになったことで、それまでの女性/男性というジェンダー・カテゴリーが自明なものではなくなりました。

このホットラインでもっとも多い相談は性の悩みですが、その中身は多種多様であり、人の数だけ悩みの種類が存在するといえます。それにもかかわらず、社会からは「男らしさ」「女らしさ」と呼ばれるような性役割(ジェンダーロール)が課せられ、身動きが取れなくなる人もいます。このようなプレッシャーから、ひきこもり状態になってしまうケースもあります。


ひきこもり当事者とジェンダー

2017年、ひきこもりUX会議が実施した調査により、これまでは見えなかった女性のひきこもりの実態が顕在化しました。ジェンダーの視点が加わることで、ひきこもり状態をより正確に把握することが期待されています。従来はある意味で一般化されていた男性の当事者、ならびに親の方にも、自覚がない「男性特有」の悩みがあるかのではないでしょうか。本書を手がかりに、潜在している苦悩の種を見つけることができるかもしれません。


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