平成27年に始まった「生活困窮者自立支援制度」。既存の制度では十分な対応が困難だった生活全般における困りごとの相談が、各地域で可能になりました。この支援制度には「自立相談支援事業」が含まれていて、ご家族がひきこもりであるケースについても具体的に相談し、サポートを受けることができます。
藤沢市では、「自立相談支援事業」の窓口「バックアップふじさわ」を平成27年に開設。翌年には藤沢市社会福祉協議会で「バックアップふじさわ社協」という窓口が生まれ、より手厚い支援が可能になりました。
「バックアップふじさわ社協」の窓口がある藤沢市役所の分庁舎で、この事業の特色や、具体的なケースなどについて伺いました。
※記事で紹介している事例は、ご本人・ご家族の了承を得て掲載しております。
藤沢市では全13地区にコミュニティソーシャルワーカー(CSW)を、生活困窮者自立支援事業相談スタッフとして配置
-バックアップふじさわ社協がスタートした経緯についてお聞かせください。
生活困窮者自立支援制度は、平成27年から全自治体で相談支援事業を進めており、藤沢市も「バックアップふじさわ」という市の直営の相談窓口を開設しました。
はじめは市役所だけで対応をしていたのですが、地域の中での困りごとがまだまだ潜在しているのではないかということで、平成28年に相談支援の一部を藤沢市社会福祉協議会が受託。「バックアップふじさわ社協」という相談窓口が誕生しました。
バックアップふじさわ社協では、コミュニティソーシャルワーカー(以下、CSW)を中心に地域で活動されている団体さんや相談支援機関などと連携しながら、地域で困りごとを抱える方たちの相談支援を進めています。
-どのような支援体制を敷いているのでしょうか。
藤沢市では、生活困窮者自立支援制度の相談員として、各地区にCSWを設置し、細やかに相談を受けられる体制を整えています。はじめは市内13の行政地区のうち、3地区でスタートしましたが、令和2年度には全13地区に配置できるようになりました。
●生活困窮者自立支援制度とは
平成27年4月からスタートした、生活困窮者の支援制度。
相談窓口では一人ひとりの状況に合わせた支援プランを作成し、
専門の支援員が他の専門機関と連携しながら解決に向けた支援を行う。
藤沢市では、生活困窮者自立支援制度の中で、次の事業に取り組んでいる。
・自立相談支援事業
・住居確保給付金の支給
・就労準備支援事業
・家計改善支援事業
・子どもの学習・生活支援事業
・一時生活支援事業
-藤沢市社会福祉協議会では、もともとひきこもり支援に特化した取組をしていたのでしょうか。
自立支援事業を受託したときも、そして今もひきこもりの方たちに関わるための専門的な土壌ができているとはいえません。
平成28年度当初から、「つぼみの会~ひきこもる家族を持つ親・きょうだいの会~」という家族会に足を運ばせていただき、どういったことを日々感じて、どのように関わっているか、といったお話を伺っていました。
その中で「ボランティアを通じて社会とつながる機会があったらいいな」、「自宅にいてもできるボランティア、社会とつながる機会があったらいいな」というお話をいただいたんです。社協といえばボランティアですから、私たちはそのお話を参考にしながら動いていきました。
こうした社会参加の取組として、旧事務所の空きスペースを活用した社会参加(ボランティア)活動を平成29年からスタート。好きなこと、得意なことが自宅以外でできること、安心して気持ちよくいられる場所として年々積み重ね、令和2年1月リニューアルオープンされた市役所分庁舎の新事務所2階に社会参加スペースを設けました。いつ来てもいいし、いつ帰ってもいい。ボランティア活動も、相談もできる場です。
藤沢市役所分庁舎2階にあるフリースペース。利用者が制作した作品を飾っているほか、仕切りのあるソファーを設置するなど、当事者のニーズに応えた設計になっている。
つぼみの会のみなさんからのコメント
私たちつぼみの会は、ひきこもる家族を持つ親・きょうだいが月1回集い、分かち合いや情報交換、勉強会をしています。会にはCSWの方に参加してもらい、情報を共有しながら一緒に考えてもらっています。コロナ禍から見えてきた「在宅でできる社会参加」が、自分らしく幸せに生きていくヒントにならないか…考えていきたいです。
本人のニーズに合わせた支援機関へのつながり
-ひきこもりに関する相談では、どのような方がいらっしゃいますか。
ほとんどが親御さんですね。そのほか、地域の民生委員さんや地域包括支援センターやケアマネジャーさんなどの関係機関から相談されるケースもありますし、中には専門学校や中学校・高校の先生が卒業後の生徒さんのことを危惧して、相談にいらっしゃることもあります。
-相談後は、どのような機関につながるのでしょうか。
例えば、「息子がひきこもりのような状態にある。もしくは長く外に出ていない」というような話があれば、これまでどのような窓口に相談に行ったかを確認しながら、改めて他の機関につなぎ直すこともありますし、「暴力を振るう」、「ここ1年、病院に行っていない」という話であれば、保健所の窓口へつなぐこともあります。経済的に困っているということであれば、生活困窮の視点から関わる必要性もあるでしょうし、障害福祉の分野へつなぐことも考えられます。
当事者のニーズに合わせられるよう、いろいろな部署の得意分野を生かしながら支援の輪をつくっていくイメージですが、現実は思うように支援機関同士の連携がなされないことも少なからずあります。
相談については、藤沢市民であればどなたでも受けられますので、お気軽にご連絡いただければと思います。
お父さんもお母さんも、ひとりの人として自分自身の夢や希望をもって生きる
-当事者本人と、親御さん、それぞれの考えがあるかと思います。実際に当事者本人や親御さんと関わる中で、各々が目指すところのズレを感じることはありますか。
そうしたケースはたくさんあります。
精神疾患がある20代のひきこもりの状態の女性は、現在実家でご家族と暮らしていますが、家の近くでいいから一人暮らしをしたいと考えています。実家の近くであればご飯のときや寝るときなど自分の好きなときに戻れますし、私たちは「実現可能ではないか」と応援しようと思うのですが、親御さんは反対しています。親御さんは、お子さんが過去、不安定になったときのことが鮮明に記憶にあり、どうしても心配で、自立してほしいという気持ちとは裏腹に複雑な気持ちなのだろうと思います。親御さんの気持ちもよくわかります。
親子間の意向に相違があり、話が行き詰まってしまうときは、少し話題を変えて、親御さんの方に、「今、○○さんは何をしたいのか」と、聞くことがあります。親御さんもひとりの人間です。いくつになっても自分自身の夢も希望もあっていいはずです。親御さんの意向とご本人の意向は違って当たり前。一人の人間同士。呼び方も例えば「お母さん」ではなく「○○さん」と呼びかけることを意識的にすることもあります。また、お子さんとお話しする職員、親御さんとお話しする職員を分けることがあります。やはり、それぞれに思いがありますからね。担当を分けて、それぞれからじっくりお話しを伺うようなケースもあります。
親子で揉めることはたくさんあっても、そうやって、折り合いをつけていけるといいなと思っています。
親御さんからの相談で動くことの多い私たちCSWは、ひきこもりの方からしたら、「自分が呼んでもいないのに勝手に来た人」になります。訪問するタイミングで不在にするなど、「関わりを持ちたくない」という意思表示をされることもあります。
それでも、「いつか本当に困ったときに一人ではない、私たちがいる」ということを伝えたいと思い、動いています。ドア越しに当事者へ声をかけて帰る、ということを続けているCSWもいますし、手紙を書き置きするCSWもいます。非常にオーソドックスな手法で、何か斬新なことをしているわけではありません。
-当事者との会話が始まるまで、長い時間がかかることもあると思います。それを十分に承知していても、親御さんが焦ってしまうことはありますか。
先ほどお話しした、社会参加の活動を切り口に関わり始めたある30代男性は、地域のボランティア活動に参加してくださるなど、とても順調に見えていました。しかし、突然連絡が取れなくなってしまったのです。会うことはもちろん、電話もメールも応答がありません。当然、それまで笑顔を見せていたお母さんも悩み、気分も落ち込みます。
こうした起伏も、当事者にとっては変化のプロセスのひとつです。親御さんからすると当事者の状況を理解しようとしても、それは気が気ではありません。親御さんには「ご本人との関係づくりには時間がかかる」ということを改めて伝え、ご本人と連絡がとれない間も、親御さんとの連絡は取り続け、定期的にお会いし、ご本人の状況の共有を図るようにしています。
●コミュニティソーシャルワーカー(CSW)とは?(バックアップふじさわ社協の場合)
生活全般における困りごとを抱えている相談者のため、一緒に考えながら解決に向けたサポートをする専門のスタッフ。
個人への支援のほか、地域に住む人たちが支え合っていくための支援も行っている。
相談は無料。電話相談のほか、相談者の自宅を含む都合のよい場所へも訪問している。
コミュニティソーシャルワーカーへの電話相談:0466-47-8131
E-mail:f-csw@fujisawa-shakyo.jp
http://www.fujisawa-shakyo.jp/bufujisawa/
地域の苦情からつながった高年齢ひきこもりのケースも
-社協では、いわゆる高年齢のひきこもり当事者が支援を受けているケースもあるのでしょうか。
高年齢の方がひきこもりの状態にあることの原因は多様ですし、ご自身の意志で地域との関わりを絶っていることも多く見受けられます。
ある60代の方のケースです。
その方は以前、サラリーマンとして働いていましたが、ご両親の介護をするタイミングで退職され、自宅での生活の中心はご両親の介護でした。その後ご両親は遺産を残して亡くなり、その方は再就職もせず自宅からほとんど出ることなく、地域とのつながりが20年以上も断たれていました。しかし、飲酒や不衛生な環境での暮らし等、生活が荒れ、地域からの苦情がきっかけで私たちとつながりました。
地域からの苦情は自分を否定する言葉ばかりの中、私たちは、その方の話を肯定的に受け止め、否定をしないやりとりを心がけ続けました。そうすることで「仕方ない。お前が言うならそうするか」といったように、少しずつ改善に向けて動き出しているように感じています。少しでも話す機会が増えたり、人が来るようになったりするだけでも、ご本人の中で少しずつ自己肯定感が回復され、前向きな実感が生まれているのではないかと思います。
当事者もご家族もメールで相談ができる
-ご家族や当事者とは、電話や訪問以外の方法でも連絡を取っているのでしょうか。
公開しているメールアドレス(下記の団体紹介に記載)に初めてご相談をくださる方もいますし、訪問したときに、Eメールのアドレスを置いていったり、渡したりすることがあります。メールはご家族だけでなく当事者の方からも来ることがありますよ。
いまはメールでやり取りをすることが多いですね。私たちは外出していることが多く電話がつながりにくいので、好きなタイミングで要望や悩みを連絡してもらえるのがありがたいです。
私たちは藤沢市で仕事をしていますから、ご本人やご家族には「藤沢で生活していてよかったな」と思っていただければと思って活動しています。いろいろな問題を抱えていても、生活をしているこの土地で、気持ちよく生きてほしいですね。
社会福祉法人 藤沢市社会福祉協議会 地域福祉課
バックアップふじさわ社協
〒251-0054
藤沢市朝日町1-1 藤沢市役所分庁舎1階
月~金(祝日・年末年始除く)8:30~17:00
電話相談:0466-47-8131
E-mail:f-csw@fujisawa-shakyo.jp
http://www.fujisawa-shakyo.jp/bufujisawa/