80代の親が50代の子の生活を支える「8050問題」。ひきこもりの長期高年齢化により、家族だけの力では経済的にも精神的にも支え切れなくなる深刻なケースが見られます。
特に親御さんが気にされるのが、「自分が亡くなった後の子どもの生活」です。親や子どもが社会的に孤立するのを防ぐために多様な支援を行なっている「一般社団法人 OSDよりそいネットワーク」の代表理事・馬場佳子さん(写真左)と、名誉会長の池田佳世さん(写真右)に、相談内容や8050問題などについてお話を伺いました。おふたりは、「もし相談したいという気持ちが少しでもあれば、一日でも早く相談してほしい」と訴えます。
多様な専門家が相談者の悩みに対応
―団体を設立した経緯をお聞かせください。
(池田)全国の家族会が集まるKHJ全国ひきこもり家族会連合会がありまして、2011年に私は2代目の理事長に就任しました。あるとき、関係者たちの中で「子どもが一人になったらどうしよう」という話題が上がり、その問題に対応するための団体が必要、という話になりました。それから紆余曲折ありましたが、OSD(親が 死んだら どうしよう)という名前が決まり、私が代表に就いて2017年にスタートしました。
(馬場)OSDが設立されたときに驚いたのは、大きな期待の声をいただく反面、「利用したらたくさんお金を取るんじゃないの?」といった、ご家族からの疑問や不信感の声でした。
当時は、ひきこもりに対する理解が今ほどはなく、自治体に相談に行っても適切な対応を受けられなかったり、「ここに当事者を連れてきてください」「仕事をする気がないならなぜ相談に来たのか」等と言われることがありました。中には、「あなたの育て方が悪かったのでしょう」と言われたケースも度々あったそうです。そうした経験が積み重なって、相談事業に対する不信感が募っていたのではないかと思います。
(池田)現在のように「子どものことを相談してもいいんだ」という雰囲気になるまでは時間がかかりましたね。
―OSDにはさまざまな専門家が在籍していますね。
(馬場)現在、カウンセラーの他、弁護士や社会保険労務士・FP※等20名以上の専門家が在籍しています。ひきこもり支援に何十年と長く関わっている者もいれば、初めはひきこもりのことを深く知らなかった者もいますが、みな、OSDの理念に共感して参加しています。OSDに参加する理由はそれぞれ異なりますが、基本の部分では「生きづらさ」という点で共通しているものがあるように思います。
OSDでは、10人以上の専門家による「案件会議」と呼ばれる打ち合わせを、毎週開いています。ご相談者の了解を得て相談内容を会議で共有し、個別にどういう支援体制を取るべきか方向性を検討いたします。例えば、家計プランを相談したいという内容であれば、※FPが担当することになりますが、相談の過程で「障害年金」を取得したい、又は取得に興味がありケースでは、社会保険労務士からご説明させていただきます。また、実は親や近所と揉めているということが分かれば、弁護士が担当することもあります。相談者が困っていることは複合的であることが多く、支援方針に従って悩み事に合った専門家が担当していくことになります。
相談が20回、30回にわたることもありますが、支援で「終わり」を迎えることは簡単ではありません。最終的には地元の自治体と連携し、伴走していただくようお願いすることもあります。
※ファイナンシャルプランナーの意
ひきこもり家庭や8050問題の実情と対策をまとめた著書「我が家の8050ガイドブック~問題解消に向けて~」を出版している。Amazon等で販売中。
無料相談事業でも出口を見据えて対策を検討
―2022年7月から、無料相談会を再開しました。
(馬場)昨年度の厚生労働省の補助事業と同様に、本年度も無料相談を行っています。どなたでもご相談いただくことができ、電話と相談フォームにて受け付けています。電話受付は週3回(火・木・土13:00~17:00:TEL03-5980-9009)行っています。
相談件数は大変増えておりまして、2022年9月までに350件以上のお電話をいただきました。電話が鳴り止まない状況のため、なかなかお電話がつながらずご迷惑をおかけすることもあるかと思います。
電話相談というと、相談者のお話を聞くだけのものもあると思いますが、OSDでは出口を見据えたうえで対策や状況改善の方法などを検討するプログラムになっています。そのため、相談が1回で終わるということはほとんどなく、継続して相談者の方とともに具体的な解決方法を見出していきます。
―電話相談で、ひきこもり当事者の方がお電話されるケースもありますか?
(馬場)全体の1/4くらいはあります。親亡き後のことを、親御さんではなく当事者であるお子さまが心配してお電話されるケースも多いです。
将来に対する漠然とした不安を訴える方が多く見られます。
また、当事者の兄弟の方からの相談もよくいただきます。当事者の方を心配に思って連絡される方もいらっしゃいますが、中には縁を切りたいというものや、遺産分割に関する相談などもあります。
特に、主な財産が家である場合は、当事者の方が家にお住まいであることや、分割が難しいなど、トラブルになりやすいです。遺言などで、親御さんがあらかじめ決めていればお子さま方に負担がかからないので、ぜひ書き遺してほしいと思います。
この他にも、当事者の方が抱えている借金や他の方とのトラブルなどいろいろあります。相談内容は人によってまったく異なるので、OSDではFPだけでなく弁護士や司法書士、就労支援の専門家など、多様な支援ができる体制を整えています。
2022年10月からはひきこもり「ひとこと相談室」を開始。無料で専門家に悩みを相談できる。OSDのサイトよりすぐにご利用可能。
団体同士が情報を共有できる「横のつながり」が欲しい
(馬場)この(ひきこもり)業界に入って驚いたのは、居場所や支援団体などそれぞれが素晴らしい活動をされているのに、横のつながりがほとんどないことです。本当にもったいないです。例えば、ある地域に居場所はあるのか、ということを調べたくても、すぐに情報にたどり着けるサイトがありません。多くの方々が様々な活動をされていると思いますので、皆さんでそうした情報を共有できる、総合的なサイトがあるといいなと以前から思っています。
また、これに関連して実感しているのが、地方では都会に比べて選択肢が圧倒的に少ないことです。都市部にはある程度の就職先や雇用がありますし、居場所や相談先もあります。しかし、地方ではそうした環境がまだ整っていないのです。居場所や就職活動に行こうにも、都市部に向かう交通費がままならないこともあります。居住地のある自治体でなければ行政に相談できませんが、地元には知られたくない、というケースもあります。
OSDでは相談支援の他、学習会や居場所、講演会なども定期的に開催している。開催情報はOSDのサイトより確認できる。
※表示されているチラシのイベントは終了しています。
「8050」になる前に一日でも早く相談を
(馬場)親なき後の対策として皆さんが想像されるのは、お金や法的な問題、手続きの処理などではないかと思います。しかし、同じくらい重要なのが、残された子どもの精神面への影響です。
例えば、ある親御さんはご自身が亡き後の準備をすっかり用意されて、後はお子さまがずっと一人で生活できる状態にされました。その親御さんは亡くなり、お子さま一人という状態になったのですが、お金も家もあるし、ヘルパーさんがご飯を作ってくれるけれど、話し相手がいない、どうやって生きていけばいいのか、という問題が起きてしまいました。部屋の明かりもつけずに「お母さん、僕はどうやって生きていけばよいのでしょう」と毎日唱えているのだそうです。
親御さんが生きているうちに、子どもが一人でも生きていけるよう、ご自身でできることを一つでも増やしてあげてほしいと思っています。会話ができるのであれば電話をかけられるようにする、お茶やカップラーメンを作れるようにする。そんな身近なことでも本人の自信になります。自分で何かできるようになることが広い意味で自立と言えると思います。
また、情報を得る手段を増やしていただけたら、と思います。スマホやパソコンが使えるだけでも随分違います。
(池田)親御さんというのは、お子さまのことは何から何まですべてやってしまうんですね。カウンセリングで親御さんに、たまには旅行などへお出かけするように提案するのですが、そのときに「ご飯は絶対に作り置きしないでください」とお願いすることもあります。お金だけ置いていけば、お子さまはコンビニで買ってきたりして何とかするものです。
こういった練習を親御さんがいるうちに、ぜひやっていただきたいですね。「親なき後」って、今まで言われてきたような単純なことではないのです。
―よく、ひきこもりの子どもと親の両方が高齢化する問題を「8050」といいますが、何歳くらいまでに相談するとよいのでしょうか。
(池田)相談に来ていただくのであれば、できれば「7040」までにはお願いしたいと思っています。80歳になると1度であれば相談に来られるのですが、脚が悪くなったりして相談を継続するのが難しくなってしまう方も少なくありません。
(馬場)親亡き後の対策にもいろいろあるのですが、例えば引っ越しを伴うようなケースになると、80代の方にとっては大変なことです。また、家計を見直そうということになっても、収支の把握が難しくなります。高齢になってから生活習慣を変えるのは難しくなりますよね。
―最後に相談を考えている方へ、一言お願いします。
(馬場)「相談しようかな」というお気持ちが少しでもあれば、一日でも早くご相談ください。お電話でご相談をいただくと「本当に相談してくれてありがとう!」という気持ちになります。
OSDはゴールを見据えた相談対応を特徴としており、多様な専門家が在籍しています。どうぞお気軽にご連絡ください。
一般社団法人 OSDよりそいネットワーク
火~土 10:00~18:00
定休日 月曜日・日曜日・祝日
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