健康で文化的な最低限度の生活1巻表紙

健康で文化的な最低限度の生活 1(ビッグ コミックス) 柏木ハルコ 2014年 小学館 192ページ

皆さんこんにちは。毎度おなじみこゆるぎです。 前回のstep・近藤さんに続いて、「読んでみた。」を書いてくれたのは、NPO法人コス援護会の園田さん。 漫画「健康で文化的な最低限度の生活」を取り上げてくれたよー。 2014年の連載開始から話題作だけれど、自分はまだ読んだことがなかったので、レビューを心待ちにしていました。 連載中だけど、現在発刊されているのは3巻まで。気になったらすぐに読めそうだね! それでは園田さんお願いします(^O^)

生活保護を受けている人も大変なら行政職員も大変だ

大学新卒で行政職員になった主人公が配属されたのが生活保護課。 このちょっと空気の読めない新米の生活保護担当職員(ケースワーカー)義経えみるが、業務を通じて、様々な人の人生とふれあい、想いを巡らせながら葛藤していく物語です。

最後のセーフティーネットと言われている生活保護。 その生活保護を、ケースワーカーを中心に、生活保護受給者、そこにかかわる人々、立場の違うそれぞれの人から見える世界に視点を移しながら話は進みます。 誰もが日々を過ごす中で、生活が危機的状態になった時、福祉事務所のお世話になるかもしれません。 創作話なのですが、丁寧な取材に基づいた生活保護のあるある漫画です。 生活保護の現場で起きる様々な内容が描かれています。 そこに携わるみなさんが、それぞれ抱えている葛藤や苦悩が伝わってきます。

生活保護って何だろう?

この作品のテーマになっている「生活保護」ってなんだろう? ふとそんな疑問が沸き起こります。 日本は立憲主義の法治国家と言われています。 ゆえに憲法と法律が制定されています。 日本国憲法第25条には「すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する」と規定されています。(本書のタイトルですね) これは「国が国民の生活を保障する」という発想で、1919年に世界ではじめてドイツで憲法に盛り込まれました。 生まれたら死ぬまでは生きていかないといけない。 どうやって生きていったらよいのか? 今の日本で生活していくには、衣食住が必要だし、そのためのお金が必要です。 個人がどんなにがんばって努力しても生きることができない。それを問題として捉え、あくまでもひとりひとりが自立するための支援を国に求める。 そのために準備されているのが生活保護。 人類の長い歴史の中で見ると、近年の新しい考え方みたいですね。

人には色々な人生がある

作中には色々な人が登場します。 家族関係が破たんして自分一人になっている人、病気を患っている人、シングルマザー、母子家庭の子ども、多額の負債を背負った人、文字が読めない人。 似ているようでみんな全く違う。 生活保護の窓口を通じて会う人達は、全員それぞれ違う人生が見え隠れします。 利用者が、福祉事務所に行くことを「まな板の鯉」「蛇に睨まれた蛙」「針のむしろ」と表現する場面があります。 主人公が同じケースワーカーの先輩にその話をすると、先輩はこう答えるのです。 「福祉事務所は対象者からしたらアウェイですから」

誰だって振返りたくない、そして話したくない過去がある。 それが今しんどいと、そして過去がしんどいと、なおさら自ら進んでは人に言いたくないですよね。 登場人物への過去やなぜ?に対する深堀りは弱いと思いますが、そこを自分なりに思いを巡らせながら読んでみるととても考え深いかもしれません。

相手とチャンネルを合わせるのって難しい

「どんな温厚な人でも尊厳を侵されれば怒ります」 「その人の生き方を最終的に決めるのは本人です」 「人は自分の都合でしか動きません」 作中にはそんな会話が出てきます。 自分を理解してもらう。 自分と違う人を理解する。 そんな風に相手の話を聞くことができる人は、この日本にもたくさんいるはずです。 しかし、相手の話している意味を察して、言葉の裏に隠された本音を聴くことができる人は少ないと言われます。 そもそも全てを言葉だけで伝えられるわけでもない。 感情の行き違いもある。 相手とチャンネルを合わせるのって難しい。 でも、どんな人でも諦めずに繰り返し接しているうちに、人とチャンネルを合わせる糸口が見つかるかもしれない。 作品全般を通して、そのようなことが伝わってきます。

「ひきこもり」と言われる現場を歩いて

私は今、福祉の現場に携わっています。 ひきこもらない人生。 ひきこもる人生。 人生は色々ですが、ひきこもりを続けられない人生もあると思います。 どうしても生活が出来なくなった時、日本には生活に困窮した国民のSOSを受け止める福祉事務所があります。 「助けて」と外に向かって声をかける勇気を持てたら、生き延びることができます。 そこで待っているのは、自分が望んでいる形ではないかもしれません。 もしかしたら周りがそっとしておいてくれないかもしれません。 色々なことを聞かれるし、話をしないといけないと思うだけで、とても怖いし、苦しいかもしれません。 でも思い悩む前に、そんな福祉事務所のお話をこの本で覗いてみませんか? みなさんやみなさんの周りにいる未来の誰かの役に立つ日が来るかもしれません。

<筆者プロフィール> 園田明日香(そのだ・あすか) 幼少期から社会に馴染めない中、ふと思い立ち2007年に「NPO法人コス援護会」を設立した。設立時から理事長を務める。 同法人で2010年から若者の自立相談をはじめたのをきっかけに、それまでの工場勤務から縁も所縁もない福祉の世界に飛び込む。 現在は「一般社団法人インクルージョンネットかながわ」に所属し、藤沢市の就労準備支援員として活躍中。 2013年から地元で保護司。

NPO法人コス援護会

一般社団法人インクルージョンネットかながわ http://inclusion-net.jp/

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