安心ひきこもりライフ
勝山実
太田出版
2011年8月発行
227ページ
「ひきこもり名人」によるひきこもりマニュアル
自称「ひきこもり名人」の著者による、ひきこもりエッセイ。といっても、ひきこもりに至る経緯や当事者としての体験についてつづっているわけではないね。これは、心穏やかにひきこもるための指南書ともいえるものだと思うよ。しかし、そこにはひきこもりの是非を問う論調はほとんどない。構成からしても「1.基礎編 2.中級編 3.歴史編 4.上級編 5.涅槃編」と章立てされている通り、ひきこもり生活の進捗ぶりと連動して展開されていく。そこには、ひきこもり生活が過ぎていく過程で起こる心の葛藤や親子関係などについて描かれ、それでは実際にどういう心構えでどう行動するのか、ということについてもユーモアを交えながら実践方法についても書いているよ。
ひきこもりの苦しみは、この社会の依存から切り離されたために起こる禁断症状なのです。
ひきこもり当事者の持つ複雑な苦しみの根本。それを一言で明快に表せるあたり、ひきこもり歴20年という著者だからこそ行き着いた境地なのかもしれないな~。
心構えと提案
これだけでは、ひきこもりマニュアルなんてのはひきこもることを推奨しているようなものだ、という誤解を受けるかもしれないね。しかし先ほども書いたように、この本にはひきこもりの是非についてはほとんど言及しておらず、ひきこもりとは格差によって生まれた社会問題である、と考えているようだよ。
安心ひきこもりライフはこの社会の外側に転げ落ちても、どうにか生きてくための智慧です。 社会の外側に放り出されてしまわないように、たゆまず「努力」している。そういう人が社会の外に放り出されることが現在の社会問題なのです。
ひきこもりになりたくてなったわけではない。社会からつまはじきにされてひきこもりになったからには、余計な悩みを抱えることなく、安心してひきこもる術を知ってもらいたい。この本はそうした考えからスタートしているように思うなぁ。
このことを理解していなければ、本書におけるユーモアはかなり自虐的なものに思えてしまうかもしれない。
中年になっても無職でいることは大変だったはずです。二五歳までに◯◯しないと大変なことになる。最悪、三十歳までに◯◯しなければ、もう死ぬしかないと思ったでしょ。
脱ひきこもりをかけて必死に働いても、この恐怖と不安はなくならない。働けば、新しい恐怖と不安が現れるのです。
ひきこもり中年男子であるなら、もう何年も前から大変なことになっているはずです。
就労に対する恐怖は何年も前に過ぎ去った、と気づくべきです。
これも著者が「中年ひきこもり」当事者だからこその説得力のある言葉。ひきこもりを日々襲うのは「労働しなければ、社会に参加しなければ将来がない」という実態のない不安や恐怖だ。そうした心の負担を軽減することが、「安心ひきこもりライフ」なのではないだろうか……。
本書で書かれているのは心構えだけではない。親子関係や金銭といった実践的な面にも触れられているよ。
特にページを割いて具体的に示しているのは金銭的なことだ。ひきこもり当事者の抱える大きな不安のひとつでもあるよね。必要な生活費を除けば、1日500円で幸せになれる。一万円札を持つと緊張する、そんな当たり前の金銭感覚を身につけましょう、と著者は提唱する。また、著者自身が精神障害により年金をもらった経緯について、事細かに書かれているよ。
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