発達障害のある女の子の表紙

発達障害のある女の子・女性の支援
「自分らしく生きる」ための「からだ・こころ・関係性」のサポート

編著:川上 ちひろ、木谷 秀勝
金子書房
2019年
208ページ

1.「女性」に視点を置いた発達障害の相談ケース

本書は発達障害者の中でも特に女性に視点を置き、当事者が抱える悩みについてさまざまな実例をまとめている。

学校や社会では発達障害への理解がまだまだ浸透していないだけでなく、支援の現場でも男性スタッフが女性当事者への対応に戸惑うこともあるそうだ。また、女性スタッフの「同性だから共感できるはず」という思い込みも危険だとしている。働き方や人間関係に悩む女性当事者だけでなく、「発達障害のある女性の理解」に悩んでいる家族や支援者にとっても、参考になる内容だよ。

2.発達障害とは?

まずは、「発達障害」とはそもそもどういうものなのか見てみよう。
「発達障害」と一言でいっても、タイプは下記のように別れている。

  • 自閉症スペクトラム症、アスペルガー症候群(ASD)
  • 注意欠如・多動性障害(ADHD)
  • 学習障害(LD)
  • チック障害
  • 吃音症など

これらは、生まれつき脳の一部に障害があるという点で共通しているけれど、複数のタイプの発達障害を同時に抱える人も少なくない。そのため発達障害は個人差が大きく、同じ障害がある人同士なのにまったく別のタイプに見えることもあるんだ。
厚生労働省のページでも発達障害について紹介されているので、障害の内容をさらに詳しく調べたい人はチェックしてみてね。
https://www.mhlw.go.jp/kokoro/know/disease_develop.html

3.発達障害のある女性を理解するためのキーワード「からだ」「こころ」「関係性」

「発達障害のある女性」という括りにおいても、ひとりひとり性格や生活環境が違うから、ケーススタディもそれぞれ異なる。それを踏まえた大きな枠組みとして、当事者が成長する過程で変化する身体・情緒・対人関係を「からだ」「こころ」「関係性」と呼び、章立てを構成している。さらに細かい分岐として「学童期」「思春期」「成人期」といったライフステージを設け、実例をまとめているよ。

ここで事例のひとつとして、「学童期」に「こころ」の問題を抱えたケースを紹介しよう。

<自閉症スペクトラム症(ASD)の診断を受けたハルカさんのケース>
小学校三年生のときに自閉症スペクトラム症(ASD)の診断を受けたハルカさんは、先生に勉強の内容を赤ペンで修正されると泣いてしまうことがあり、教室に絶対入らないようになってしまった。
ハルカさんはこのほかにも、ズボンをはくことへのこだわりが強かったり、髪の毛がボサボサのまま登校したりするほか、クラスメートとのおしゃべりでアイドルの話をしているときに突然マンガの話を振り、周囲に「えっ?」と言われるようなことがよくあった。

ASDの特徴のひとつとして、人の心を読むことが苦手であるという指摘がある。さらに、他者とのトラブルが多いと「私は嫌われている」というネガティブなバイアスがかかるようになる。

加えてASDの女の子の場合、男の子に比べて対人関係に過敏な傾向があるといわれている。そうした女の子は、相手との人間性に深く悩んで葛藤が続き、疲労が強まる結果として事前にトラブルを回避しようとする。これが不登校やひきこもりのきっかけとなるのだね。

ハルカさんは、心配になったお母さんに連れられてクリニックを受診。プレイセラピーと呼ばれるメニューとお母さんとのカウンセリングを並行して行った。その結果、学校にいる時間が少しずつ長くなり、友達と遊ぶ時間も増えてきた。

プラレールをつなげるプレイセラピーでは、思い通りにならないと怒ってレールを壊すことがあっても、セラピストが静かに壊れたレールを片付ける。数回のセラピーを受け、ハルカさんは「思い通りにやっても壊れない人間関係」を実感できるようになった。セラピストさんに「ありがとう」と言うようになったほか、「別のおもちゃで遊びたい」と話すようになるなど、情緒面に変化があったという。

このケースでは、「こころ」の悩みが「関係性」によって複雑化し、疲労や不登校という形で「からだ」に現れた。「からだ」「こころ」「関係性」、この3点の理解が発達障害者の悩みを知るうえで必要になるんだね。

4.「女性らしさ」ではなく「その人らしさ」を認めてサポートする

「発達障害の女の子・女性を支援する」というのは、当事者を発達障害ではない人たち「定型発達者(NT)」に合わせようということではない。発達障害の女性は、既にそのことで深く悩み、疲弊している。

私たちがよく使う「疲れた」という言葉ひとつをとっても、コミュニケーションの複雑なズレを思わせるエピソードがある。

もっとも代表的な例は、「疲れた」という言葉です。NTの日本語的文脈だと「あぁ、1日がやっと終わった」という安堵感や「(ずっとあいつといて)もういいや」という精神的徒労感などの意味が強いでしょう。ところが、綿貫さんや寛子さん(編集部注:発達障害者の女性)と直接話していてわかることは、「疲れた」と表現している時には、既に120%のエネルギーが奪われていて、「身体に力が入らない(脱力感)」、「腕や脚が痛い(筋肉痛)」感覚に近い、ある意味重症状態に陥っている場合があります。本当に「からだ」や「こころ」も、「関係性」からパニック状態になっている時には、「声」に出すことすらできません。

「発達障害のある女の子・女性の支援」(金子書房)より

ストレスや疲れが溜まりすぎると、限界を超えて爆発し、暴力などに発展することがある。これを「二次障害」と呼ぶのだけれど、二次障害はNTを含め誰にでも起こりうることだね。ただ、発達障害のある女性は感受性が強い傾向にありながら、それをうまく相手に伝えられない。その結果ストレスが蓄積し、あらゆる形で二次障害につながる恐れがあるんだ。深刻な場合には、犯罪や性被害などにつながるケースもあるという。

彼女たちがこうしたストレスから開放されるために必要なのは、何なのだろうか?
発達障害にはさまざまなタイプがあるので簡単には答えを出せないけれど、本書では「発達障害の女性に特化した『多様性ある生き方』」から、当事者を理解したり支援したりすることが重要だ、と示している。

ただ、「その人らしさ」を尊重するには、前提として社会での最低限のマナーを守る必要がある。個性を尊重しながら、社会や人間関係、自己理解を深めることをサポートする支援団体・自助グループなども紹介されている。このような支援の利用やグループに参加することで、当事者が生活の質(QOL)を上げて暮らせるようになることが望まれる。

また、本書では「セーラー服を着ることを嫌がる」というケースを例に、※LGBT についても取り上げている。男性・女性という一義的な「性」よりも、その人固有の「性」への理解も重要だ。この事例では、周囲の人や学校が、当事者自身の思いを吐露できる環境を作ったり、「性に違和感をもつことは特別なことではない」と伝えたりすることで、当事者の通学が楽になったそうだよ。ステレオタイプの「女性らしさ」を求めるのではなく、「その人らしさ」を認めることが大切なんだね。

LGBT
性的少数者 (セクシャルマイノリティ) を表す言葉のひとつ。
Lesbian(レズビアン 女性の同性愛者)、Gay(ゲイ 男性の同性愛者)、Bisexual(バイセクシャル 両性愛者)、Transgender(トランスジェンダー からだの性とこころの性が一致しないという感覚(性別違和)を持つ人)の頭文字を取っている。


【参照】神奈川県「性的マイノリティ(LGBT等)に関する正しい理解を」
http://www.pref.kanagawa.jp/docs/fz3/cnt/f430243/

5.こゆるぎがまとめた「発達障害のある女の子・女性」について

  • 「発達障害のある女の子・女性」を理解するキーワードは「からだ」「こころ」「関係性」
  • 「学校」「社会人」「結婚」「子育て」「老後」など、ライフステージごとに見ることで当事者に起こりうる問題が整理できる
  • 比較的対人関係に過敏で、動くことができなくなるほど疲弊してしまうケースがある
  • ストレスを溜め込みやすい。その結果、二次障害につながる恐れがある
  • 周囲や支援者は、当事者が「社会のマナー」を守ることを前提に、「女の子・女性らしさ」ではなく、「その人らしさ」「多様性のある生き方」を尊重する
  • 発達特性のある女性が集まれるグループ・団体などもある

書評では紹介しきれなかったけれど、執筆者には研究者や支援者だけでなく、発達障害のある女性も含まれている。当事者にとっても共感できるポイントがたくさんありそうだ。発達障害がない人にとっても、ひきこもりや不登校になる理由・経緯を紐解くうえでとても参考になると思ったよ。

<リンク>

ヒューマン・スタジオ まるさん ひきこもりQOL追究の旅! 「ひきこもり×おしゃれカフェ」編
【書評】「名前のない生きづらさ」を読んでみた。
【書評】「居るのはつらいよ」を読んでみた。

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