未来の年表

「未来の年表」 ~人口減少日本でこれから起きること~
河合雅司
講談社現代新書
2017年
208ページ

皆さんこんにちは。星こゆるぎです。
今回は、NPO法人コス援護会の園田明日香さんに選書・書評をいただきました!
人口等に関するさまざまな統計データを分析し、日本の将来を予測した本となっているみたいだよ。それでは園田さん、よろしくお願いします(^O^)

人口減少による日本の「決して明るくない」未来

日本では「少子高齢化」が叫ばれて久しい。近年はひきこもり界隈でも「8050問題」と呼ばれる、「80」代の親が「50」代の子どもの生活を支えるという問題が浮き彫りになってきているし、あなたが住んでいる地域でも、街並みや周囲を見渡してみると子どもが減って高齢者が増えたように感じることはありませんか?多くの人にとって、社会の変化が少しずつ肌感覚で捉えられるようになってきました。

本書は、人口減少などの観点から、統計データを分析して日本でこれから起こりうる社会問題を予測しています。

著者は人口政策や社会保障政策の専門家として、複数の大学での客員教授や内閣府、厚労省、農水省の各有識者委員も務められていた方で、同社会問題についての著書も複数執筆されている方です。

現在、新型コロナウイルス感染症をはじめ、人種差別と暴力の問題、それに自然災害など、あまりに大きな課題を日本だけでなく世界の国々が抱えています。インターネットで次々に流れるニュースを見て、日本や世の中のことを考える機会が増えている方も多いと思います。こうした関心をきっかけに、これからの日本のあり方を考えてみるのも良いのではないかなと思いました。

300年後の人口は「450万人」に?

小松左京「日本沈没」、五島勉「ノストラダムスの大予言」、アーサー・C・クラーク「2001年宇宙の旅」など、これまでも日本や世界の未来を描いた本はたくさんありました。しかし、創作に基づいたこれらSF的な作品とは異なり、本書は日本の未来を統計に基づいて現実を突きつけます。

日本の喫緊の課題をまとめると、大きく4つに分かれるという。

  1. 出生数の減少
  2. 高齢者の激増
  3. 社会の支え手の不足
  4. 人口減少

4番の人口減少は、1~3番が互いに絡み合って生まれます。

日本の人口減少は、長い人類史においても異常に速いペースで進んでいます。いまのままでは、日本の総人口は300年後にわずか450万人になるかもしれないと取り上げています。これは、現在の福岡県(約510万人)を少し小ぶりにした規模にあたります。日本の人口減少が、地方が消滅するというだけにはとどまらないレベルで進行していることが分かります。

急激な人口減少によって、日本社会にどのような変化が起こるのでしょうか?それを予想したのが、本書の肝となっている「人口減少カレンダー」です。将来、人口減少によりどのような社会問題が起きるか予測しています。多くは労働や福祉、防衛などの社会基盤について触れており、特に深刻なのが社会インフラを維持する労働力の確保です。日本全体がやせ細る中、自治体同士で綱引きをしているどころではない状況だと指摘しています。将来、行政サービスの安定的な供給を目的としてより大規模な合併が起こる可能性もあるのだから、これは日本全体で考えていかなければならない問題となります。

一方で海外に目を向けると、地域によって異なるものの、世界的な人口はまだまだ増える傾向にあります。そうなると、今後は世界で食料争奪戦が起きるのではないかという懸念があります。日本の食料自給率は低く、安定した食料確保に目を向けなければならないでしょう。ところが、国内では就農人口の減少と耕作放棄地が激増しています。

また、人口減少と深くかかわる「高齢化」の実態をもう少し詳しく見てみましょう。
国は人口の1/3が高齢者となる「2025年問題」に標準を当てていますが、高齢者の人数が最大になるのは、団塊ジュニア世代が高齢化する2042年としています。この年になると、人口の1/2が高齢者になると想定されています。団塊ジュニア世代は就職氷河期時代に重なり、それまで得た所得が少ないまま高齢者に突入する人が少なくありません。ここは、ニート・ひきこもりへの関連性も認められる重要な点であると思います。

このように、日本が抱えた課題は非常に大きい。どうやら、日本は課題先進国になっているらしいです。

人口減少に適した社会作り

日本が経済的に成功を収めていた時代は、国内の人口増加を前提として成立していたものでした。現在、政府が進めている経済対策として「外国人労働者」や「AI」の活用があります。しかし、これらに安易に依存したり期待しすぎたりすること自体が、20世紀のビジネスモデルから脱却しきれていないといえます。このほかにも「女性」「高齢者」の労働市場の活用といった観点もありますが、こうした4つの選択肢の模索を続けつつ、新たな選択肢として「戦略的に縮む」ことを提唱しています。

「縮む」とはすなわち、人口減少に合わせて社会規模を縮小すること。人口減少対策を進めながらも、人口減少を前提とした準備を進めて「小さくともキラリと輝く国」を作り上げるということだそうです。

そのために具体的かつ大胆な方策を10個挙げていますが、その中のひとつに「24時間社会からの脱却」があります。コンビニエンスストアやファストフード、運送業など、24時間体制で動いている業界は少なくない。過剰なサービスを見直すことで不要な仕事をなくし、労働時間の短縮にもつなげる。支え手の減少に備えた対策ともいえます。

このほか、高齢者の定義を「75歳以上」に引き上げて労働人口の減少を食い止める、第3子以降に1,000万円を給付して少子化に歯止めをかけるなど、これまでの慣習や仕組みを見直した提言が多数なされています。

しかし、これも限られた予算と人員を選択することにほかなりません。社会保障を破綻させないために、誰しもが変化と不便さの受容を求められる時代に突入するという裏返しといえるかもしれませんね。

先の見えない社会でどう暮らしていくか

本書が出版されたのは2017年のこと。現在は新型コロナウイルス感染症によって未曾有の事態になっており、本書でも予想されなかったような社会変化が今後生まれるかもしれません。これからも、平時では考えられないような動きがあると考えられます。それでも、少子高齢化という大きな軸で日本がこれから抱えていく課題を浮き彫りにしています。

私たちは、これからの日本でどう暮らしていくことになるのか?先行きが見えない中でも、今後起こりうる変化を知っておくことで、今後どのような世の中を生きていくのか、どう生きていくのか?それを一考する機会になったらよいと思います。

<筆者プロフィール>
園田明日香(そのだ・あすか)
幼少期から社会に馴染めない中、ふと思い立ち2007年に「NPO法人コス援護会」を設立した。設立時から理事長を務める。
同法人で2010年から若者の自立相談をはじめたのをきっかけに、それまでの工場勤務から縁も所縁もない福祉の世界に飛び込む。
横浜市内で生活困窮者自立支援法施行前の関連相談室の勤務にはじまり、藤沢市の就労準備支援員を経て、現在は新潟県村上市で放課後等デイサービスの児童発達支援管理者として活躍中。2013年から地元で保護司。

※園田さんのほかの書評はこちら
https://hkst.gr.jp/review/12097/

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