引きこもりから旅立つ10のステップ表紙
引きこもりから旅立つ10のステップ (講談社プラスアルファ文庫)
富田富士也
講談社+α文庫
2002年
341ページ

シンプルな構成

 教育カウンセラーの著者が受けてきた数多くの相談についての内容になってるよ。親と子どもの関係に焦点を当てていて、登場する事例の当事者は10代~30歳前後と年齢は様々。

 本書は2分構成と、とてもシンプル。Part1では「切ない願い」と題し、著者の体験談に自身の解釈を少し加え、親子関係について考察しているよ。Part2の「再出発」は、著者が相談を受けた事例を事細かに、それも解釈をほとんど加えない形で生々しく描写しているんだ。本書のタイトル通り「10のステップ」に分類していて、当事者や親、親類の言葉が痛切に響く内容だよ。

親と子ども(当事者)間の認識のズレ

 そもそもどういった経緯で子どもがひきこもるのか。
 学校の中でいじめにあった、クラスの人間関係がうまくいかない、そうしたことで「不登校」になり、ひきこもる場合もあるだろう。しかしひきこもりは、学校を辞めたり、卒業したりした後も延長される場合がある。そんな「不登校その後」に関する話が、この本が書かれた当時には、テレビにも新聞にもなかったという。つまり、20歳を迎えた不登校は存在しないと思われていたみたいなんだ。

 こうしたひきこもりに対する認識のズレから、ひきこもり当事者を持つ親は、子どもが一向に外に出ず、働かない理由が分からずに、困惑していたよう。そのため、子ども(当事者)と親のコミュニケーションはすれ違い続けて関係が修復されない、といった状況が展開されたと、本書Part2の事例で取り上げられているよ。

「いい子」の仮面

 当事者の家庭環境は人それぞれだが、ここで取り上げられている事例の多くは、幼少から「いい子」と言われて育ってきた子どもが多い。「いい子」でいようとしていた背景には、親同士の不仲、または親からの過剰な期待を背負ったことなどがあるみたい。

 こうしたことは学校での人間関係や親との関係にも影を落とす。当事者は「いい子」でいるためのコミュニケーションを取ることに疲れたり疑問を感じたりしたときに、人間関係を強いられる社会からいったん身を引くが、「普通に生きること」への希望を持っている。

 しかし社会は悩んだり、立ち止まったり、振り向いたりすることを許さない。これを著者は「脅迫社会」と表現している。それは親の生きる社会でも同じことで、常に「納期」を迫る「脅迫社会」が、「いい子、いい人、いい親」をつくりあげた、と著者は書いているよ。ふむふむ。

絶望に淵からふたたび生き直す

 著者の受けた相談の中には、かなりシビアなものもある。なぜそれほどまでに親子関係がギクシャクしてしまうのかというと、問題の根っこに気づきにくいためかもしれない。「灯台下暗し」という言葉があるけども、子どもが「いい子」を演じていたり、何の気もなしに言った言葉で傷ついていたり、ということはなかなか察知できない。何が引き金となったかは、当事者にしか分からないこともある。そして、そのことが当事者のストレスを増大させるのではないだろうか・・・。

 著者は「エピローグ」で以下のように書いているよ。

絶望の淵に立たされた人がふたたび生き直してみよう、と希望をつかむには、何が助けになるのだろうか。学歴だろうか、お金だろうか、名誉だろうか。そんなものは何ひとつ救いの命綱にはならない。それは唯一、人間への信頼感、孤立しない人間関係の「術」、ただそれだけである。

 当事者にとって学歴の不利や将来のお金の心配などはたしかに大きな問題だけれども、自分の思いや希望を思い切ってぶつけられる、そんな親子関係をじっくりと築き直すことが「再出発」への原動力になるのではないかと思ったよ。

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