私がひきこもった理由
取材・文 田辺裕
ブックマン社
2000年
221ページ
飾らない言葉で語られるひきこもり体験
当事者によって語られるひきこもり体験の数々。15件にものぼるインタビューには、何の編集も入らず、当事者の過去や現在、苦境や転換期についてなど、それぞれが思い思いに話しているよ。
登場する15人の境遇はさまざま。年齢は20代前半~30代半ば、子どもの時は明るかった人もいれば、おとなしい人も。両親と確執があったり、いじめられていた過去があったり、高校を中退した人もいれば、大学院まで進んだ人も。ひきこもりに至った道のりは違うけども、外に出られない、不安感、死にたいという気持ち・・・・・・。そういったひきこもらずにはいられない心情は、共通しているようにも思えたよ。
ひきこもった理由
彼らはなぜひきこもったのか。きっかけはそれぞれ違うのだけども、この本で紹介される事例では、学校での生活が大きな基点になっている場合が多いと思ったよ。いじめを受けた、集団行動が苦しくなった、というような人間関係の悩み。それに、「いい子」として育ち中学までは成績優秀だったのに、高校や大学といった同レベルの学生たちと学力を争う場で相対的に成績が落ち、「いい子」としての自己が揺らいで自信を失う。 希薄になっていく周囲とのつながり、深まる溝。ある当事者はこう話しているよ。
昔の友達はもう社会人としてバリバリ働き始めたときなのに、自分は不安から逃げるために遊んでいる、という感じです。(大学)二年生になるとその不安が強くなって、自分を責めて鬱的な感じになってきました。
自分と同じひきこもってる人に伝えたいこと
15人の中には現役ひきこもりもいれば、脱ひきこもりした人、ひきこもりをしながら生きる道を模索している人など、これまた現況もさまざま。他の同じ境遇にいる人に、どんなメッセージを送っているのかな。
家にひきこもっていると絶望的な気分になることがけっこうあります。でも、人の心は時間とともに変わっていきます。だから今はそういう気分だとしても、希望は持っていてほしいです。
ひとりで部屋に居続ける辛さ。昼夜逆転の生活による家族とのすれ違い。外を知る怖さから、テレビも見られない。頭の中では堂々巡りして、気分が鬱屈としてしまう。それでも、人の心は変わる、希望を持ってほしいというメッセージだね。
まずは焦らないでほしいです。焦ると泥沼になりますから。それと不登校の人達は、サボっているんだ、という罪悪感を感じることはないです。気を休めて、自分を見つめ直せば、心もだんだん落ち着いてくる。そうしたらいろんなことが見えてきて、さらに自分を成長させることができる、という風に考えていければいいんじゃないかと思います。
早く外に出なければ、社会に戻りたい……。焦れば焦るほど、体調が悪くなったり、精神的に辛くなってしまうジレンマ。ひきこもってることが悪いと思わず、気を休めるくらいのつもりで、というメッセージになってるね。ふむふむ。
当事者の抱える悩みは時代とともに変わった?
本書は2000年に出版されたもので、今から12年も前のもの。そのせいか、読んでいて「ひき☆スタ」の投稿でいただいた悩みの声とは、少し違いがあるように感じたな~。
「ひき☆スタ」では「就労したい気持ちがあるのに、年齢や職歴がネックで仕事に就けない」という投稿が多く届いているけれども、本書ではそうした悩みはほとんど読み取れないね。労働環境を取り巻く状況が今と違うのかな?
そして、2000年といえばインターネットが家庭レベルで普及し始めた頃。本書ではひきこもっている時にインターネットを導入した、という声が多く、それによってチャットや掲示板、専門サイトなどで自分と同じくひきこもっている人がたくさんいることを知ることができた、というものが多いよ。そして、そのことが当事者に明るい材料となったみたい。まだ「ひきこもり」という言葉が広く知られていなかったので、当事者同士での語らい、ひきこもりの情報を知ることは非常に有用だったんじゃないかな。
そんな頃とは比べものにならないくらい、今はインターネットがみんなの生活に浸透。当事者以外からは「インターネットがあるから部屋から出ない」そういう声もあるみたい。だけど、この本を読む限りでは、当事者にとって自立へのきっかけをつくる大きな効果があるんじゃないかな~と思うよ。「ひき☆スタ」だからそう言うわけじゃないけど・・・・・・w
ひきこもった理由、今の状況は人それぞれ違うけれど、この「ひき☆スタ」をはじめとして、インターネットを使って似た境遇の人とコミュニケーションを取ったり、近くのサポステを探してみたり……。この本で脱ひきした人も、何らかの転換期があった人が多いみたい。焦ることなく「これかな?」という糸口を見つけたいね。
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