毒になる親表紙
毒になる親 一生苦しむ子供 (講談社プラスアルファ文庫)
スーザン・フォワード (著), 玉置 悟 (翻訳)
2001年
講談社
328ページ

「ひきこもり」についての本ではないけれど

今回とりあげる本は、以前に投稿でリクエストをいただいているもの( https://hkst.gr.jp/opinion/3600/ )です。直接的に「ひきこもり」について語られる本ではないけど、こちらの投稿にあるように、当事者と親との関係性について何か共通点があるかもしれない…ということで、今回読んでみることにしました。

「毒になる親」は、子どもに対してネガティブな行動パターンを執拗に続け、子どもの心に悪影響を及ぼす親の存在について言及したもの。著者は有名なカウンセラーで、この本が刊行された2001年当時に世界中で反響を呼びベストセラーとなっているんだよ。日本でもとても話題になっていたね。

これまで書評で扱ってきた本の中にも、親との関係に触れたものがいくつかあるよ。例えば「ひきこもりの家族関係」や、「引きこもりから旅立つ10のステップ」がそうだったね。もちろん、投稿でも親子との関係についてのものをいただいてきました。というわけで、今回はこの本そのものの書評というだけでなく、当事者と親の関係についてどうリンクするか考えながら進めてみるね。

親に心を支配されてしまう

まず本の紹介の前に、気をつけておきたいのは「毒になる親」という強烈なタイトル。これは英語の原題「TOXIC PARENTS」からきています。英語では「心」の問題に対しても「有毒」「汚染」という表現を用いるのだそうで、日本語ではこの「toxic(有毒な)」という単語を「毒になる」と訳しているとのこと。

内容の方もこのタイトルに違わずとても重い事例が続いているんだ。2部構成となっている本書の第1部では「毒になる親」の様々なパターンを紹介しているけれども、その中には親が子どもに対して暴力を振るう、アルコール中毒で子どもにもアルコールを飲むよう強要する、といった事例を含んでいるよ。そのため、著者は「毒になる親」に対して厳しい態度で臨んでいることをまずはご理解ください。

さて、親が子どもに悪影響を及ぼすような行為って、どんなものがあるだろう? それは先ほど述べたように暴力やアルコールに起因するものなどはっきり分かるものもあるけれど、ここでは明確にならない行為について取り上げてみるよ。明確にならないというのは、つまり親にも子どもにも自覚しづらいということ。例えば本の中に「コントロールばかりする親」という項目があるけれども、親ならばまだ小さな子どもに対してある程度しかったり保護したりするのは大事なことだし、厳しい言葉もしつける場合には必要かもしれない。しかし、子どもが成長して一人立ちしても、「毒になる親」は依然として子どもをコントロールしようとする、と書いているね。ここで紹介されているある母親の事例では、子どもが大人になっても頼みもしないのに食事を出したり、勝手に部屋に入ってクローゼットを整理したりしてしまう。やめてくれと頼むと「娘の世話をするのがなぜいけないの」と泣いてしまい、まるで自分が寂しい母親をじゃけんにしているようなひどい娘のように見られてしまうという。このように間接的に心をコントロールすることで、自分の生活が親の影響下にあることになかなか気づかなくなるみたいだね。

この相談者は著者と何度か面談するうち、いかに自分が親にコントロールされてきたか気づきはじめたという。

……彼女はそれまで自分でも知らない間にどれほど母によって自信が傷つけられ、弱められてきたかということに気がつきはじめた。だが、たまったフラストレーションと押し殺された怒りが表面にわき出てくると、同時に強い罪悪感を覚えるのだった。それは「自分のことを思ってくれている可哀想な母」というイメージが心の奥にしみついているためだった。だが心の奥では母親に対する怒りは高まる一方で、しかしそれを人にあからさまにしゃべるわけにはいかないため、ますます自分のなかに抑え込む以外になかったのだ。その結果が強いうつ病となってあらわれていたのである。

親に対する怒りはあるのに、どうすることもできず精神的に追い詰められてしまったんだね。
このように親が絶対的な存在であるために親を責められない、または親が原因と気づかないケースは他のパターンにも多く見られたよ。そしてこの事例の他にも、親に執拗に兄弟と比較されたり、家族全員に責められたりと、様々な相談が寄せられているようだね。小さな子どもにとって親は世界の中心であり、親に言われた言葉は無意識のなかに埋め込まれる。そのために起こる現象の一つとして、大人になってから自分の望むことが、本当に自分の望むことか親の望むことが区別がつかず、無気力に襲われることもあるらしい。すなわちアイデンティティーの分離ができない、ということなんだね。ふーむ。

負の感情を親に伝える

本書の後半では、「毒になる親」に心を傷つけられた子どもがどうしたらよいか、カウンセラーである著者の実践をもとに具体的な方法を提示しているよ。

著者はまず、親によって傷つけられた心を癒す方法の大前提として「親を許す必要はない」と書いているね。自分の受けてきたことを無かったことにして抑え込む人が多く見られるそうだけども、先ほどの実例のようにそのためにうつ病になったり、精神的に健康でいられなくなってしまう可能性がある。この「許す」という行為には大きな落とし穴があるということなんだね。
ただ、著者は親を「決して許すな」と言いたいわけではないので、そこを誤解してはいけない。すべての心の整理がついた結果そうならくてはならないのであり、まず最初に「許さなくてははじまらない」というのでは順序が逆になってしまう、というのが著者の考えだね。

親に対する悲しみや怒りをどうやって伝えたらよいか。本書では段階を追って具体的な方法を記し、チェックリストも載せている。ところが、どんなにうまく伝えても「毒になる親」が反省の弁を述べたり謝ったりすることはほとんどないみたい。自分の間違いを認めず、逆上するのがまさに「毒になる親」そのものだという。しかし、そうなったからといって失敗というわけではなく、自分の思いを伝えるという行為そのものに意味があり、その効果はとても大きいものだそうだよ。本人に伝えるのが難しいなら、写真や第三者に話すことでも効果はあるらしい。

子ども(自分)が気をつけなくてはいけないこととして、親に話す目的を「復讐」や「怒りをぶつける」ということにすり替えてはいけないということがあるそうだよ。真の目的とは

●親と正面から向き合い、はっきり話をすること
●そのことへの恐怖心を、これを最初で最後のこととして勇気を出して乗り越えること
●親に真実を語ること
●親と今後どのような形の関係を維持することが可能かを判断すること

と、著者は考えているんだね。ふむふむ!

共依存を断ち切り「本当の自分」へ

「こうしたことにより子どもがひきこもった」という紹介はされていないものの、うつ病になるなどメンタルに問題を抱えた相談者もいることから、ひきこもりと何らかの形でつながる可能性があるのではないかと思うよ。こういった「毒になる親」でないにしても、当事者の心の中で親に対し何かネガティブな感情を残しているのならば、この本の考え方は参考になるかもしれないね。
それから、当事者の持つ「自分は何者か」という問いが、実は親との関係に深い結び付きがあるみたい。自身の「考え」と「感情」と「行動」が親に支配されることにより、自分で自分をコントロールできなくなってしまうんだ。そこで、自分は親から「考え」「感情」「行動」においてどのような影響を受けているかを分析して、「本当の自分」を見つけることが大切なんだって。親との「共依存」から抜け出すということだね。

親に負い目を感じたり、重い感情を持ち続けていては、自分の気持ちもなかなか穏やかになれないよね。この本ではその気持ちを親に伝える重要性について書いていたけども、以前にひき☆スタのインタビューに答えてくださった宮本亜門さんも、親子で分かり合う難しさについてお話しされているよ( https://hkst.gr.jp/interview/4324/ )
ご自身の話の他に、親とうまくいっていないお友達の体験談として、インタビュースタイルで親に質問する話もでてきたのだけど、ここでは「怒ったり揉めたりしない」というルールだけ作って話し合ったんだって。まるでこの本に書かれているルールと一緒だね! この体験談では、その結果お互いに仲良くなったけれども、宮本さんは「『家族』という結び付きにとらわれると、逆に苦しくなることもあるし、お互いに違う人間ですから、それぞれが求める幸せのかたちも違っていいのではないでしょうか」と語っていたよ。このお話も本に書かれていたことに似ているな~。

今回は「読んでみた。」初の海外の本、しかもひきこもりについての本ではなかったけど、これまでとは違った新たな発見ができたと思ったよ。

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ひきこもり本マイスター

星こゆるぎ

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